5日、ホンダがF1からの撤退を発表した。会見した福井威夫社長は「サブプライムローンに端を発した金融危機、各国に広がった経済の後退 で、ホンダを取り巻くビジネス環境が急速に悪化、回復にはしばらく時間がかかると予想され、経営資源の効率的な再配分が必要との認識から決めた」と語っ た。
 ホンダにとってのF1は常に「チャレンジ・スピリット」の源泉だった。1964年、F1に進出した。二輪車市場での圧倒的名声を背景に鮮烈なデビューを 果たした。F1進出後ただちにホンダは四輪車市場に打って出た。69年いったんF1から撤退するが、1976年、当時、世界で一番ハードルが高かった 「51年排ガス規制」をクリアしたCVCCエンジンを発売する。
 1983―92年に再びF1に参入した。今度はレースに強いチームとしてカムバック、1988年にホンダエン ジンを搭載したマクラーレンが16戦15勝するなどモータースポーツで絶頂期を迎えた。1990年代は自動車メーカーによる世界帝合従連衡があった。年産 400万台規模以上でないと世界で生き残れないとされ、フォードはボルボ、ジャガーなどを参加に収め、ダイムラーはクライスラーと、日産はルノーと相次い で合併した。ホンダは400万台には届かなかったが「どこ吹く風」とばかりに企業統合には参加せず、単独で生き残る道を模索、2000年チームとして再び F1に参戦した。
 モータースポーツファンにとってはホンダのF1撤退はショックであろうが、ホンダの経営は世界の自動車メーカーの中でも悪くはない。2008年3月期の 売上高は12兆28億3400万円(前年度比8.3%増)、営業利益は9531億900万円(同11.9%増)、税引前利益は8958億4100万円(同 13.0%増)、当期純利益は6000億3900万円(同1.3%増)。トヨタに次ぐ高い利益を出している。
 この中でF1参加の経費は500億円は決して安くはないが、負担できない額ではない。にもかかわらず、この時機に撤退を発表した背景は何なのだろうと考えざるを得ない。
 1964年のF1参入から、今回は3回目の撤退である。参入と撤退の度に、ホンダは大きな飛躍してきた。ホンダにとってF1は常に成長の跳躍台となっていたのである。過去の撤退は次なる参入を目指しての内部蓄積の時期だったと考えれば、期待もできる。
 自動車産業は環境問題と原油価格の高騰と二つの面から大きな岐路に立たされている。電気自動車や燃料電池車の開発は進められているが、いまだハードルは 高い。何年後か分からないが、ホンダらしい奇想天外な発想で再び自動車産業の革命児となっているかもしれない。先週末、そんな期待を持って「本田F!撤 退」のニュースに接していた。(伴 武澄)

第一期 1964-68(四輪進出)
第二期 1983-92(Civicに排ガス規制車)
第三期 2000-08(世界的合従連衡に加わらず独自でメーカーへ脱皮)
第四期 ?(→今度は?)
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