賀川豊彦の世界的名著『Brotherhood Economics』は1936年、ロチェスター大学ラウシェンブッシュ講座での講義から生まれた。ロチェスター大学は1850年設立で、ニューヨーク州 西北、オンタリオ湖に近いロチェスター市にある。コダック、ボシュロム、ゼロックスなどこの町で生まれた有名企業が少なくない。
 イーストマン・コダックを創設したイーストマンが5,000万ドルを寄付して発展したため、光学部門では世界有数の業績を残している。ニュートリノでノーベル物理学賞を授賞した小柴昌俊もロチェスター大の大学院を卒業している。
 イーストマンは登場したばかりのセルロイドに銀乳液を塗ったロールフィルムを発明、1888年に特許を取得し た。「You press the button, we do the rest」という宣伝文句により、誰もが撮れるカメラを世に出した。撮影後にカメラを送り返して、10ドルを払えば、フィルムを現像し100枚の写真と新 しいフィルムを装填するというシステムで、その後のコダック特有のインスタマチックカメラとなった。
 乾板がフィルムになったことにより、連続撮影が可能になりムービーが誕生する素地も生まれ、映画誕生のきっかけとなった。
 ちなみにフィルムの材質はセルロイドで、化学的に合成される前はクスノキから抽出された樟脳によってつくられた。エジソンの発熱電球のフィラメントに日本の竹が採用されたように、日本の樟脳がフィルムカメラの生産を支えた。
 ボシュロムは「レイバン」ブランドで有名な眼鏡メーカー、ゼロックスは説明の必要はあるまい。ともにロチェスターで産声を上げた世界的な光学企業である。
 シリコン・バレーが生まれる背景にスタンフォードがあったという話しは有名である。しかし、本当はどちらがたまごなのかは分からない。IBMが最初のフ ロッピーディスクを生産した地こそがシリコン・バレーなのだという説もある。しかし写真フィルム誕生の地がロチェスターだったとは誰も伝えていない。(伴  武澄)