きょうの日本経済新聞15面のコラム「一目均衡」に編集委員の西條郁夫氏が「GM無配転落の衝撃」を書いている。
 恥ずかしながら、7月15日のGMの無配転落発表を知らなかった。
 資本主義社会のトップ企業として長年、世界に君臨してきたゼネラル・モーターズの無配転落は86年ぶりなのだそうだ。1929年の大恐慌の時期も安定配当を続けたことが誇りだった。OBへの年金や健康保険制度を保ちながらも分厚い内部留保がGMの誇りを支え続けてきた。
 はからずも原油の高騰による大型車の売り上げ不振がGMの経営の足を大きく引っ張った。GMの苦境を尻目に、その原油の高騰で大もうけをしているのがアメリカの石油資本である。アメリカの石油資本は自動車の普及とともに共存共栄の関係にあった。
 1920年に、ピエール・デュポンがGMの実権を奪い、アルフレッド・スローンの経営によって世界一の企業にのし上がったが、1936年、石油会社スタ ンダード・オイル・カリフォルニア(のちのシェブロン)やタイヤ会社ファイアストンと共同で「ナショナル・シティ・ラインズ」を創設し、1950年までに 全米各地の路面電車会社や電鉄会社を買収し、線路をはがして次々とバス運送に置き換えていった。自動車依存型のアメリカ社会を築いたもの、GMと石油資本 だった。
 2000年代に入って、せっかく発展し始めた電気自動車を殺したのもたぶんGMと石油資本の陰謀だったに違いない。このことは7月23日に「誰が電気自動車を殺したか」ですでに書いた。
 アメリカ資本主義を支えてきた2本の屋台骨のうちその1本が折れかかっている。GMの無配転落の衝撃は限りなく大きい。
 長期的に見て、原油価格が100ドルを超える水準で取引されるはずはない。投機的資金がババ抜きをしているのが現在の原油先物市場である。有り余った資 金が人々の生活向上のための投資に向かわず、博打に流れている。その博打のおかげで、GMの経営がかつてない危機にさらされている。
 多くのアメリカ大企業は従業員の首切りなどしてこなかった。日本以上に従業員に手厚い福利厚生を施してきた。成果主義が先走るのはニューヨークの一部マ ネー系企業だけなのである。ゆったりとしたシートの5000ccクラスの大排気量車に乗ってゆったり走る。そんなゆとり経営の代表格がGMだった。
 原油、穀物、鉱物の先物市場だけが繁栄する経済でいいのか。金融だけがもうかる経済などあるはずもないのだが、アメリカにまだ経済の方向を軌道修正する気配はみられない。
 日本経済新聞が6月末で集計した世界の主要40の自動車会社の時価発行総額ランキングでは、GMはトヨタの1/26まで縮小した。
 1位のトヨタ自動車の時価発行総額は25%減ったものの断トツの1706億ドル、約18兆円だった。1位はフォルクスワーゲン(VW)で77%増の 994億ドル、約10兆円である。3位以下はダイムラー、ホンダ、日産自動車、BMWと続き、9位に韓国の現在自動車が入った。
 GMは16位のマツダの次の17位で65億ドル、つまり7000億円程度で世界のGMが買えてしまうことになる。過半数でよいのだったら、3500億円であるから、そこらの小さなファンドでも買える水準にまで落ち込んでいるということである。

 GM、大胆なコスト削減【日経ビジネスonline】