「バドワイザー」で知られる生産・販売量で世界3位の米ビール最大手アンハイザー・ブッシュは13日開いた取締役会で、世界2位のベルギー、インベブから持ちかけられた総額約500億ドル(約5兆3300億円)の買収受け入れを決めた。両者が14日発表した。世界市場の4分の1を握るトップの巨大ビール メーカーが誕生する。【共同通信】
 ダイナミックだなと思った。思い出すと筆者がビール業界を担当したのは1990年代前半。アサヒのドライがキリンを猛追して、遂にアサヒがキリンのシェ アを上回った時期とほぼ重なる。業界ランキングの1位と2位がひっくり返ったのをみて当時、ビール業界は「ダイナミック」と感じた。業界秩序を重んじる日本の他の産業界では決して起きえない”事態”だったからである。
 そのころ、世界のビール業界はBudweiser(バドワイザー)バドワイザーのアンハイザー・ブッシュがトップで、フィリップモリスが所有していたMiller(ミラー)が2位だった。3位はオランダのハイネケンだったはずだ。
 10年ほどたって、経済誌にベルギーのビール会社がM&Aを通じて猛然とシェアアップしているという記事を読んだ。「インターブリュー」という耳慣れない企業で、台風の目になっているという内容だった。
 そのインターブリューは2004年にブラジルのアンベヴ(Ambev)を買収して「インベヴ」(Imbev)と社名を変更さらに巨大化していた。そのイ ンベヴが今回、世界一のバドワイザーを買収した。と思ったら、バドはすでに世界3位に地位を落としていたのだから、驚いた。インベヴはすでにバドを上回っ ていたのだ。
 では世界一はどこなのだろうと瞬間考えた。SABミラーという会社だった。ミラービールなら知っていたが、SABミラーは不覚にも知らなかった。 2007年には売上高182億ドル(前年比22%増)、税引き前利益28億ドル(同14%増)というトップでありながらまだ成長途上の企業だった。
 SAB(南アフリカビール)は100年以上も前の1895年の設立。ずっとアフリカのローカルなビール会社だったが、90年代に海外進出して業容を拡大、2002年ついにアルトリア(旧フィリップモリス)からミラービールを買収して世界的企業に成長していたのだった。
 フィリップモリスが社名をアルトリアに変更した2003年、同社はすでにミラーを手放していた。そして5年後の2008年、アンハイザーブッシュは会社ごと、ヨーロッパに身売りした。バドワイザーもミラーもアメリカからなくなるのではない。しかし反対にキリンやアサヒが相次いで海外のメーカーに買収され たら日本人はどんな反応を起こすのだろうと考えると興味深い。