これからどうするのかって?
 まだカンボジアを離れることは考えていない。
 なぜかって?
「カンボジアに来て五感が刺激されて忘れていたものが戻ってきたという感じなの。病院のある地域は静かでしょ。なんでもそのまま音が聞こえて、においもそもままなの」
「真っ暗闇なんてそれまで経験したことがなかった。風が分かるっていうのかな。雨が降るとその音が聞こえ、その後にカエルが鳴く。雨だれの音もする。自然の中で生かされているってことに気づくの」
「私がいてっていうのではなく、自然の中で私がいる。カンボジアではくさいもの、きたないものもかくされていない。そんなもの見るものではないが、ブタ、 ニワトリ、アヒルが生活の中に当たり前のようにいる。例えばブタは殺されるため、酒を飲まされ、気絶状態でオートバイに乗せて運ばれている。時折、目を覚 ましてキーとか鳴いている、無残だけとそういうものがいて私がいる」
「カンボジアにいたいという感情は、子どもたちとの人情とかそういうものがないとはいえないけど、そんなかっこいいものではない」
「不便の楽しさってあるでしょ。たくさんのプロセスが逆にエネルギーになる」
「この8年ずっと、楽しかったのではないの。最初の2カ月は確かにラブラブだったけど、文化の違いというものは大きい。嫌なこともたくさんある。そういう 自分に『嫌じゃない』と言い聞かせ、自分の本当の気持ちを抑えていた時期もあった。多分カンボジアが大嫌いになっていたのだと思う。ただ8年で文化の違い は乗り越えたと思う。そうね倦怠期を過ぎた夫婦って感じかな」
 日本の若者についてどう思う?
「日本の若者は何かを求めていることは分かるが、装っているのかな。カンボジアにもよく若者が来るが、『こういうものがほしかった』といって帰る。良くも 悪くも殻の中を出ない。殻が割れるといいものが出てくる。目が覚めることもあると思う」
 勘違いも多い。カンボジアに来て屋台でご飯を食べることがかっこいいと思っている人がいる。そんな人が下痢すると、その下痢をしたことさえが勲章になる。
 カンボジアの子どもの写真を見た日本の子どもとこんな会話があった。
「なんで靴をはいていないの」
「靴がないからよ」
「なぜ靴がないの」
「お金がないから買えないの」
「なぜお金がないの」
 自分で作らない、直さない。カンボジアの人たちにはそうなってほしくない。でもそうなりつつある。8年でよくなったとはぜんぜん思わない。変わったけど、都市と農村の格差は以前より大きくなっている。

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