ドイツで年金の支給開始年齢を67歳に引き上げるという話を1年前、新聞で読んだ。ドイツ連邦政府が、年金の受給開始年齢を段階的に引上げることを目的とする、年金改革法案で合意を見たというものである。
 現行の支給年齢は、原則的に満65歳に達した月の翌月から。改革法案では、2012年から支給開始年齢時期を毎年一月ずつ引き上げる。最終的に67歳になるのは1964年に生まれた人からとなるからまだ時間がかかる。
 人間の平均余命がどこまで伸びるのか分からないが、日本でもそんな議論が起き始めているから黙っているわけには行かない。
 30年前に共同通信社に入社した時、共同の人の平均余命が63歳だと聞いたことがある。在職死亡を含めての数字だが、若かったし、「へー記者ってのは激務だから長く生きられないのだ」。他人事のようで気にもかけなかった。労働組合は当時、定年延長を闘っていた。55歳から60歳への引き上げである。定年は制度ではあるが、労組が会社から勝ち取ったものである。定年が延長されると当たり前のように年金の支給年齢も併せて引き上げられた。
 現在の日本の年金の支給年齢引き上げは定年延長を伴わない制度改正だった。政府は支給年齢を先に引き上げてから、企業に対して「再雇用」だとか「雇用延長」を求めるようになった。本来は逆でなければならない。
 20年前には60歳以上の人を働かせるには理由があった。少子化に伴う労働人口の減少という切羽詰まった問題があった。90年代初めのバブル期、労働人口の減少に対する懸念が台頭していた。だから女性の雇用や高齢者雇用が叫ばれ、外国人労働の導入も政策課題にのぼった。しかしその後に景気が減退して、逆に人余りとなり、労働人口の問題はしばらくトーンダウンした。
 この間、日本の財政が逼迫、長期的な低金利も相俟って年金制度の改革が迫られた。正確にいえば改革ではなく改悪である。年金の支給年齢を引き上げなければ、年金制度が破たんするとされ、支給年齢を段階的に65歳に引き上げるよう制度が改められた。
 本来は労働人口減少から雇用延長が不可避とされたのに、定年から年金支給開始の65歳まで収入が途絶えるため、高齢者雇用が再び政策課題となった。年金が払えないから雇用延長が必要となったのである。これは本末転倒だ。国民はこれも仕方のないことなのだと受け入れた。
 しかし、支給年齢が67歳となると話は別だ。たった2歳ではあるが、この2歳は大きい。65と67では年齢の「響き」が違う。65歳はまだ「壮年」の続きのイメージがあるが、67歳はもはや70代の入り口である。年金は老後生活の生活資金である。大方の人は、65歳ならばその後もまだまだ生きているだろうというイメージでとらえるだろうが、70歳となれば死を考える年齢である。
 その70歳の入り口である67歳まで年金がもらえないとなれば、これは年金ではない。平均余命が80歳だとしたら、定年後20年間の生活費が必要となる。その三分の一は自分で生活費をかせがなければならないのである。たった13年の生活費のために30何年も掛け金を掛け続けなければならないのだとしたら年金などいらない。
 ここまでくれば、年金制度は完全に破たんしたも同然である。