2006年10月17日(火)萬晩報通信員 成田 好三
 プロ野球の球団が優勝を決めた直後、必ず行う恒例の儀式があります。祝勝会場でのビールかけです。選手や監督、コーチらが大量のビールをかけ合って喜びを 爆発させる、あの儀式のことです。海の向こうのMLBにも同様の儀式があります。かけ合う酒類がもっと高級で、シャンパンファイトと呼ばれています。
 これまで、ビールかけもシャンパンファイトも同じ趣旨の儀式だと思っていましたが、それは筆者の思い違いだったようです。まったく趣旨の違ったビールかけとシャンパンファイトがあることに気づいたからです。
 まずは、MLBのシャンパンファイトから話を始めることにします。アメリカン・リーグの地区シリーズで、デトロイト・タイガースは初戦に敗れた後、3連 勝でニューヨーク・ヤンキースを下し、A・リーグの優勝シリーズ進出を決めました。本拠地のコメリカパークで3勝目を挙げたタイガースナインは、球場の ロッカールームですぐシャンパンファイトを始めました。ところが、このシャンパンファイトはあっけないほど短い時間で終わってしまいました。
 しかし、ロッカールームでのシャンパンファイトは「準備動作」でしかありませんでした。タイガースナインは満員の観客がスタンドで待つフィールドに飛び 出してきました。手に手にシャンパンの瓶をもっての登場で、早速フェンス沿いを走りながら、シャンパンを観客に盛大に振りかけて回っていました。
 そして、圧巻だったのは、ベンチの屋根の上でした。屋根によじ登った選手が、すぐ隣にいる観客にシャンパンを振りかけていました。そこには制服姿の警備 員もいましたが、彼は笑って立っているだけでした。そして、彼も最後には帽子の上からシャンパンの泡の「洗礼」を受けることになりました。こんな光景はす べて、NHK・BSで放送されました。
 一方、プロ野球のビールかけはどうだったでしょうか。東京ドームで、延長戦の末に巨人を下してセ・リーグ優勝をきめた中日ナインも、当然ながらビールかけの儀式を執り行いました。しかし、その光景はどんなものだったのでしょうか。
 日刊スポーツの記事によると、中日ナインは日付の変わった翌日未明、遠征先の宿舎のプールサイドでこの儀式を行ったと伝えています。翌日未明なのは仕方が ありません。延長戦で試合終了が遅くなったからです。しかし、会場は球場でもホテルの宴会場でもありませんでした。この時間帯とこの場所では、取材陣も含 めた関係者しか、この儀式に参加できなかったことは明らかです。 
 MLBのタイガースの優勝決定は本拠地であったのに対して、中日のそれは敵地の球場でした。巨人が東京ドームで相手球団の胴上げを見るのは初めてでした。巨人も東京ドームも、球場内で相手球団のビールかけなどやらせる気はなかったでしょう。
 しかし、それにしてもです。観客と喜びを分かち合ったタイガースのシャンパンファイトと、球場ではなく宿舎のプールサイドで関係者だけで儀式を行った中日との違いは、単にビールかけやシャンパンファイトの話だというのでは済まされない内容を含んでいます。
 野球に限らず、プロスポーツの主役はファンです。なかでも直接会場に足を運んでくれる観客こそもっとも重要な主役です。観客やファンの支持があってこ そ、プロスポーツは成立するのです。プロ野球とMLBとのファン、観客に関する考え方の違いが、タイガースのシャンパンファイトと中日のビールかけに表れ たといえるのではないでしょうか。(2006年10月16日記)

 成田さんにメールは mailto:narinari_yoshi@yahoo.co.jp
 スポーツコラム・オフサイド http://blogs.yahoo.co.jp/columnoffside