2006年04月09日(日)萬晩報通信員 成田好三
 小泉純一郎という人は、本当にすごい人ですね。何とも絶妙なタイミングでの普天間移設(米海兵隊普天間飛行場のキャンプ・シュラブ沿岸部移設)合意でした。この合意によっって、民主党代表選一辺倒だったメディアの関心を、半分近くは政府・自民党に引き戻したからです。
 普天間移設合意と民主党代表選の日程が偶然重なったのなら、小泉首相の強運は神がかり的です。意図的な日程を重ねたのなら、天才的な軍師というしかないでしょう。
 政治生命を賭けて民主党代表選に出馬した小沢一郎氏は、普天間移設合意の一報を聞いて、小泉氏の恐ろしさを心底から感じたのではないでしょうか。
 4月7日。政治メディアの関心は民主党代表選に集中していました。小沢氏と菅直人氏とが争い、小沢氏が圧勝した代表選は、夕方には決着しました。この時点で民主党と小沢氏はこの夜のTVニュースと翌日の新聞は代表選の話題で「独占」できると考えたでしょう。
 しかし、夜になって状況は一変しました。額賀福志郎防衛庁長官とキャンプ・シュワブのある沖縄・名護市の島袋吉和市長が防衛庁内で会談しました。この会談で額賀氏は滑走路を2本整備するという「隠しだま」を提示し、合意に達しました。
 この突然の合意によって、メディアの扱いは大きく変化しました。当初予定通りの、民主党一辺倒の扱いでは済まなくなってしまいました。民主党代表選に割 り当てられる予定だったスペース(新聞)と時間(TV)の半分近くは普天間移設合意に割り当てなければならなくなりました。
 この扱いの変化は、メディアにとっては当然の対応です。小沢氏が民主党代表に選出されるという大ニュースがあっても、普天間移設合意が無視したり小さな扱いでは済まない問題であることは明らかだったからです。
 しかしです。滑走路を2本整備するという、普天間移設の隠しだまはいつ、誰が用意したものでしょうか。メディアも虚をつかれたようで、そんな疑問には何も答えてくれません。
 対抗勢力が圧倒的に関心を集めるテーマがピークに達する時点で、まったく別でありかつ関心を集めるテーマをぶつける。小泉氏の得意中の得意とする手法です。今回の民主党代表選と普天間移設合意も、結果としてはそうなりました。
 普天間移設合意で2本の滑走路を整備すること、その提案をいつ出すかということを最終的に判断できるのは額賀氏ではなく、小泉氏だけだということは明らかです。
 小泉氏の政治家としての時間は、田中角栄的支配を打破することに費やされてきました。田中角栄の秘蔵っ子であった小沢氏が政治家として最後の勝負に出た 民主党代表選に、小泉氏はとっておきの隠しだまをぶつけてきたのではないでしょうか。(2006年4月8日記)

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