執筆者:文 彬【早大アジア太平洋研究センター特別研究】

レオ・バーネット(LeoBurnett)は、年間売上35億ドルを誇る世界最大の広告代理店であり、豊富で高品質なサービスメニューの中でも特に企業のブランド構築力とアイデアの考案力に定評があると言われているが、大陸におけるビジネス活動でしばしば壁にぶつかっていることから中国に対する理解の浅さが露呈している。

6月21日、ケンタッキーとの大陸のファーストフード市場争奪戦に明け暮れるマクドナルド中国現地法人(中国全土660店舗、URL=http://www.mcdonalds.com.cn/)は、「中国人消費者に対する侮辱」と抗議が殺到したため、レオ・バーネットがプロデュースしたテレビ広告の放映を中止するとともに「広告代理店のミス」として遺憾の意を表明した。もっともマクドナルド側が広告の審査機関、中国広告協会の審査を待たずにその「ミス」のある広告を流したのも大きな責任問題だが。

この30秒広告が問題とされたのは、男性客がDVD店の店主らしい傲慢な男の足元にひざまずいて優待期間の延長を哀願し、その直後に「マクドナルドは365日優待」というセリフが続くシーンである。これは明らかに『中国人民共和国広告法』の「消費者を侮辱しないこと」という条項に違反しているのだが、マスコミと抗議者は、更に「ミス」の広告が外資企業が「中国消費者」を侮辱していると解釈したため、問題が大きくなったのである。ただ、その傲慢な店主も外見から見て同じ中国人であるのが不幸中の幸いである。

ここで疑問視したいのは広告製作元のレオ・バーネットのいわゆる「中国文化」に対する感覚である。数ヶ月前にも当社は、大陸でも著名なブランドとなっている立邦漆社(日本ペイントの中国法人、URL=http://www.nipponpaint.com.cn/)のために製作した広告が中華文明の象徴である龍を侮辱したとして猛烈な抗議があったため、謝罪したばかりである。ユーモアのセンスに富む二つの作品は何れも創意工夫と表現技術では申し分ないと広告評論家も認めているが、中国人のタブーに触れただけで逆効果になる。レオ・バーネットの中国法人には優秀な中国人スタッフが多くいるはずなのに、しばしば初歩的なミスを犯すことから見て「中国文化」に鋭い感覚を持つスタッフがいないように思われる。

だが、国民はプライドが高く(それはしばしば夜郎自大やコンプレックスによる屈折した心理である)、排外思想が根強い。そして政治的、文化的及び歴史的タブーの多い中国における広告業では、「中国文化」と民衆やマスコミの動向に敏感な専門家が必要不可欠である。(WJCF6月26日)
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