執筆者:堀田 佳男【ワシントン在住ジャーナリスト】

「したたか」という言葉しか思い浮かばないようなことが起きている。

そこにはカネがついてまわる。金銭的強欲さを地球の裏側にまでとばし、人が死ぬのを横目で見ながら収益をあげる。

ハリバートンという会社の名前が世界中を駆けまわったのはイラク戦争前の2003年初頭である。副大統領のチェイニーが政権入りするまで経営最高責任者(CEO)を務めていた石油開発会社だ。当時、副大統領というポジションを利用して会社に利益をもたらせる癒着の噂は絶えなかった。さらに、メディアは戦争でカネを稼ぐ「死の商人」的な行為を糾弾しもした。ハリバートンは世界中から鋭い眼をそそがれ、不正は何もできないかに思えた。

戦争から2年たった今、メディアから「石油利権」という言葉はほとんど聴かれなくなったが、ハリバートンとその子会社KBR(ケロッグ・ブラウン&ルート)は、潮が音もなく満ちるように、イラク戦争を契機に多額の収入をあげていた。

今月18日、ハリバートンはテキサス州ヒューストンの本社で株主総会を開いた。CEOのデイビッド・レサーは、イラクでの戦争関連事業の売り上げが昨年約7500億円にのぼったことを口にした。

やってくれるものである。しかし、時間がたつにしたがって彼らの所業があばかれ始めた。しかもペンタゴンの内部告発という形で企業の暗部がでてきたのだ。一人の勇気ある声が多くの悪行をあらわにする。だが、その声を発露することはその人間が役所の他の人間から総スカンを喰うことであり、辞めさせられるということでもある。家族を養う人間にとっては大きな決断であり、躊躇しがちな勇断だ。しかし、アメリカには89年に法制化された内部告発者保護法があり、こうした内部国内でも原則的には解雇されない。

米陸軍にいるバニー・グリーンハウスという女性将校はイラク戦争を契機に、入札なしでKBRが多額の契約をとっていくことに気づいていた。民間企業の契約を統括する役目をしていた彼女は、階級が上の将校たちによってKBRが不当な契約を結んでいた事実をつかむ。

彼女の所属する陸軍工兵隊(USACE)だけで約80億円が入札なしでKBRに渡っていた。これはアメリカ版談合である。グリーンハウスは弁護士とともに、アメリカ政府を敵に回すのだ。すでにKBRやハリバートンが不当にペンタゴンからカネを受領していたことは、何人ものジャーナリストの調査報道によって明らかにされている。グリーンハウスの件は3月10号の月刊誌『VanityFair』に出た。

また、下院政府改革委員会の委員長で長年敬愛している政治家ヘンリー・ワックスマンもハリバートンを糾弾し続けている。彼は正義感あふれる人物で、リベラルの魂が表情からも感じられるワシントンの重鎮である。

そうした流れのなかで、ハリバートンは現在、連邦捜査局(FBI)とアメリカ証券取引委員会(SEC)、司法省からナイジェリア、イラン、イラクなどでの公共事業で不正契約があったかどうかの調査を受けている。元社員からも不正会計を理由に告訴されている。それだけではない。ペンタゴンから「貰いすぎた税金」630万ドル(約6億6000万円)を政府に返金したし、社員2人がクウェートの民間企業からキックバックを手にしていたことも認め、腐敗した体質が露呈されている。

さらに今後、2億1230万ドル(約222億円)もの大金を「もらい過ぎ」として政府に返すことになっている。私を驚かせるのは、この化け物企業が多数の社員(契約社員も含める)を混迷のつづくイラクに飛ばし、すでに60人もが命を落としていることだ。それでも株主総会ではCEOが登場してイラク戦争によって売り上げがあがったと嬉々としている。

本社のあるヒューストンの市民運動活動団体の会員、メリッサ・パトリックは「戦争で人命が失われていても平気で利益をあげられる恥知らずで腐敗した企業」と憤りを抑えない。カネにまみれた株主たちは配当があがれば何をしても構わないのだろうか。そこにチェイニーの顔が見え隠れするところがブッシュ政権のおぞましさである。

堀田佳男のDCコラム「急がばワシントン」5月27日から転載 http://www.yoshiohotta.com/
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