執筆者:文 彬【早大アジア太平洋研究センター特別研究】

■インターネット上の「憤青」

反日デモの発生した翌日、企業訪問のため中関村エリアに入り、件の「海龍大廈」前を通りかかった時、タクシーの運転手に「ここだったね」と尋ねると、彼は「まったく迷惑千万の憤青ども」と不快の色を隠さなかった。

「憤青」(Feng Qing)とは「憤怒青年」の略で、発音が似ていることから時折「糞青」と揶揄されることもある。また、ローマ字の頭文字を取って「FQ」とも呼ばれている。彼らの多くは高レベルの教育を受けており、一般市民と同等か、それ以上の生活を送っている。政治と社会問題に多大な関心を示し、時折過激な言動に出る。また、自らを愛国者と認め、反米・反日感情が強い上、しばしば日米と共生を図る中国政府にも罵詈を浴びせる。

しかし、政府の厳しい統制によって極稀なケースを除けば表に出て活動することはほとんどなく、インターネットを主な活動の場としている。かつて日本と米国の政府サイトを攻撃したのも彼らによる仕業だと言われている。言わば現代中国の右翼的な存在だ。連日の反日デモも「憤青」のネット呼びかけによって起きたもので、デモ参加者の中にも「憤青」は多いだろうが、彼らの行動は必ずしも一般市民の支持を得ているわけではない。

「デモ参加者は1万人と報道されているが(実際は500人程度で残りは野次馬だと証言する目撃者もいる)、現在の北京の在住人口は1400万人に上っている。表現の自由が限定的でありながらかつてより大幅に許され始めた中国だから、日本嫌いの人間が0.07%くらいいても驚くにあたらない」と、私は出張から帰ってきてから日本人の友人に説明したこともある。

中国憤青の主張をそのまま日本人がやると「サヨク」、日本版の憤青が「ウヨク」である。中国のネット論壇を観察するうえで「憤青」(FQ)と「精英」(エリート。JYと略称される)という言葉に代表されるふたつの思潮を理解することが重要だと思う。(WJCF4月23日)

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