執筆者:成田 好三【萬版報通信員】

子どもたちが急激に少なくなってきた。少子化などという官製用語を使わなくても、多くの人がそれぞれ身近な出来事を見聞きする度に、そう感じているに違いない。

筆者の住む町内では、もう何年も前から町内単独の子ども会ではソフトボールのチームが組めなくなっている。幾つかの町内が合同でチームを編成することが当たり前になった。

ほんの十数年前までは、町内ごとに単独でチームが編成できた。そればかりか、子どもが余ってしまった。ユニホームが全員分揃わず、ユニホームをもらえなかった子どもの親が、「なんで俺の子どもをはずしたんだ」と監督や役員に怒鳴り込む光景まであった。

国の統計によると、日本は2007年から「人口減社会」に突入する。人口減に伴い日本社会が衰退すると、メディアは警鐘を鳴らし、国や自治体も人口減対策を重要課題に位置付けている。

国の人口が減る最大の原因は少子化にある。その国の女性たちが、より少なくしか子どもを産まなくなったからである。では何故、女性たちはより少なくしか子どもを産まなくなったのか。

国の少子化対策推進基本指針(要旨)にとると、少子化の原因と背景は「出生率低下の主な原因は、晩婚化の進行等による未婚率の上昇。その背景には、仕事と子育ての両立の負担感の増大や子育ての負担感の増大」とある。

しかし、指針に書かれている原因、背景とも根本的原因でも根本的背景でもない。それらは派生的、表層的な現象であるにすぎない。

欧米諸国や日本などいわゆる先進国では、経済の発展とともに例外なく出生率が落ちる。少子化が進行する。その根本的原因について、国の指針は何も語っていない。

筆者は人口問題や女性問題の専門家ではない。ましてや人口減や少子化の動向を追う研究者でもない。しかし、素人でも分かる少子化の根本的原因に触れることなく、国の政策は進められている。それで、素人ながらもこのコラムを書くことにした。

他にも派生的な様々な原因はあるが、少子化の根本的原因は、出産・子育ての選択権が、当事者である女性本人に移ったことにある。先進国では、経済の発展に伴う女性の精神的、経済的自立によって、それまで男性配偶者やその親たちがもっていた出産に関する選択権―子どもを産むか産まないか、産むとすれば何人産むか―が、出産する女性本人に移ってきた。この国では、通常の場合は出産の前提になる結婚の選択権も男性から女性に移行している。

自立する(しようとする)女性が出産の選択権を得れば、女性たちがそれまでのように十人前後もの子どもを産み、育てようとすることなど考えられない。出産は、時には生命の危険を伴うなど、本人にとってはリスクの大きな「仕事」である。だから、少子化は先進国に共通する現象になる。

その国に住む女性たちが子どもを産まなくなれば、大量の移民を受け入れる以外にはその国の社会は継続できない。だから、少子化社会では、その国に住む女性たちに、社会が継続可能なだけの適切な数の子どもを産むよう促す政策こそ、最も重要な政策になる。

その答えは単純である。日本の現状では、出産とそれに伴う子育ては、自立した(しようとする)女性にとっては、「得にならない」「損をすることが確実」な選択肢である。市場原理で動く社会で、明らかに損な役回りを無理強いすることなど、誰もできない。この現状を逆転させればいいだけのことである。

女性が出産のために会社を辞めれば、その会社に再就職することは困難である。他の会社でも、その女性のキャリアに見合った業務に就くことも難しい。育児休暇を取っても、復帰後に元の職場に戻れるとは限らない。こうした社会システムのままでは、女性たちにもっと子どもを産んでくれと頼んでも、どだい無理なことである。

政府が本気で少子化を回避し、人口が増える、あるいは人口が急激に減らない社会にしたいと考えるならば、社会システムを、子どもを産み育てる女性が、そうしない女性より得をする、少なくとも損をしないように変えるべきである。

出産・子育てする女性が尊敬され、仕事への復帰の道が開かれており、金銭的にも損失を被らない。女性が「人生設計」する際にトータルな観点から判断して損をしない社会システム構築すべきである。そうでなければ、どんな政策を取ったとしても、それらは小手先な政策であるにすぎない。政治家と本来はその手下であるべき官僚が抜本的な政策を取らない限り、少子化の進行は止まるはずはない。

小泉純一郎首相は1月21日に国会で施政方針演説を行った。今回の施政方針演説は、郵政民営化以外は役人の「作文」を並べつないだものだった。その中で小泉首相は少子化対策について簡単にこう触れた。「待機児童ゼロ作戦を引き続き推進するとともに、現在60%の育児休業制度の普及率を5年後には100%にすることを目指します」。たったこれだけである。あとは役人の書いた枕詞とお題目が数行続いていただけだった。(2005年2月2日記)
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