執筆者:成田 好三【萬版報通信員】

11月30日付の河北新報の記事「宮城球場、内外野人工芝に 楽天球団方針固める」によると、プロ野球パ・リーグの東北楽天ゴールデンイーグルスを運営する楽天野球団は、本拠地とする宮城県営宮城球場の大規模改修で、内外野のグランド全面を人工芝に張り替える方針を固めた、ということです。

河北新報は、「楽天は新しい天然芝への張り替えも検討していたが、短期間で根付かせるのが困難なため、来季の開幕に間に合わないとの懸念もあったようだ」と、人工芝に切り替える事情を伝えています。県営宮城球場では今、来季の開幕に向けて、大規模改修の突貫工事が続いています。参入決定の遅れもあって、来季の開幕に間に合わせるためには、あるいは人工芝でもやむを得ないのかもしれません。

しかし、楽天球団オーナーである三木谷浩史氏、あなたは「日本に誇れる球団をつくり、プロ野球を変えるのが、われわれのミッションだと思う」と、参入決定時の記者会見で語っています。楽天球団の方針がこの記事の通りだとすれば、極めて残念なことです。あるいは、あなたがまだ最終決断を下していないならば、再考を願いたい。理由は以下の通りです。

プロ野球が抱える問題は数多くあります。親会社に赤字補填を依存する自立しない経営、選手の年棒や球場の入場者数さえ正確に公表しない閉鎖性などです。これらは複合的に絡み合って、契約時の有力選手への裏金の提供など、反社会的行為を生み出してきました。

もうひとつの重要な問題は、プロ野球が極めて鎖国的スポーツであるということです。広い意味での「ローカル・ルール」が多すぎます。ストライク、アウトのカウント順が違います。ストライク・ゾーンも違います。ボールも微妙に違います。これらの違いは、日本の野球が戦後半世紀以上にわたって、「国際ルール」の必要のない、国内だけに限定された、プロ野球を頂点にして継続してきたからです。

なかでも違うのは、球場の形態です。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)各球団の球場は、一部のドーム球場を除いてすべて天然芝の球場です。そして、天然芝の球場の内野は例外なく芝生で覆われています。内野に芝生のある天然芝の球場が「世界標準」です。日本以外、どこの国の球場もそうなっています。プロ野球選手が初めて参加したシドニー五輪、今年のアテネ五輪の野球会場もそうなっていました。プロ野球では神戸にあるオリックスの本拠地(現・ヤフーBBスタジアム)だけがこの形態です。

ドームの人工芝球場で育った松井稼頭央は今季1年間、MLBの内野に芝生のある天然芝球場に苦しみました。五輪やW杯など国際大会でも、日本代表は「世界標準」球場への対応に悩み続けています。

三木谷氏が本当に野球を愛し、球界を新たなシステムに変える意思があるならば、県営宮城球場を人工芝の球場に造り替えるべきではありません。有能なビジネスマンであり、豊富な資金力をもつあなたが、簡単に天然芝の球場を諦めてしまったとすれば、残念でなりません。メンテナンス費用の安さ、球場を野球以外のイベントに使用する際の利便性から人工芝を選択したとしたら、論外の話です。

あなたは金儲けのためだけに、つまり「楽天ブランド」の知名度・イメージアップのためだけに、球界に参入したのではないはずです。今も「プロ野球を変えるのが、われわれもミッションだと思う」と考えているならば、人工芝球場は再考すべきです。来季開幕時は無理だとしても、数年のうちには内野にも芝生のある天然芝の球場に張り替えるべきです。

楽天野球団が二軍の本拠地に決定した山形県には、オリックスの本拠地より先に造られた、内野に芝生を張った野球場があります。鶴岡市の「鶴岡ドリームスタジアム」です。シドニー五輪前に日本代表が合宿した球場です。二軍視察の際には鶴岡市に足を運ばれて、この球場を造った人たちの意見を聞かれてはいかがですか。(2004年12月9日記)
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