執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

国際平和協会のアジアの意思研究会(会長・宝田時雄)のメンバーが9月20日から4日の日程で台湾を訪問し、22日、欧陽瑞雄外交部常務次長と会談した。台湾側は外交部の呉嘉雄台日関係執行秘書が同席、協会からは宝田特別研究員のほか大塚寿昭評議員、伴武澄専務理事が参加した。

本来は、陳唐山外交部長との会談が予定されていたが、急きょ外国出張の日程が入ったため、次官との会談となった。会談の中で欧陽次官が強調したのは、台湾の生存のためにアジアの国々に対して「主権の概念」を変えることを求めたことであった。主権国家でないことを理由に多くの国際機関に加盟できないでいる台湾の苦悩を示したものだ。
欧陽 ようこそいらっしゃいました。宝田という名前を聞いてハンサムな日本の俳優の名を思い浮かべました。大塚さんの塚で宝塚を思い出しました。国際平和協会はこれまで国際平和のために多面的な活躍をしてきたと聞いています。環境面でも高い関心を持っているそうですね。私の名の欧陽は欧陽菲菲の欧陽です。五千年前は親せきだったかもしれません。
宝田 われわれは「アジアの意思」ということで人物を求めて台湾にきました。人が人でなくて、どうして国家が国家として成りえようか、という先人の言があります。台湾ではさまざまな問題を考えました。それを解く要点は歴史を多面的に俯瞰して、民情を下座観することが大切と考えます
欧陽 アジアからみて日本は規律があり、団結があり、秩序がある国柄であり民族です。ハイテクレベルは世界トップクラス。アジアのリーダーの資格があります。雁行(がんこう)経済理論でもリーダーで、親分でもあります。きれいな景勝地も多く環境にも力を入れている。素晴らしい国です。現在、経済的に難問を抱えていますが、発展のプロセスの中でどこでも起きるようなことです。中国は現在、一〇%を超える成長を続けていますが、経済力が低い時代に台湾にもそういう時代がありました。
人材の育成は非常に大切です。人材なしには国をたてることができない。台湾は現在、三六カ国と国交があります。中南米や太平洋の国々が多いのですが、そういった国々でも同じです。わたしは昨年までシンガポールにいましたが、同国では国を挙げて人材の育成に努力していました。資源がなく小さな国土ではなおさら人材が必要です。
台湾でも人材にスカウトや留学生の帰国を促すなど全力をあげてやってきました。蒋介石の時代、九年間の義務教育を推進したことが、その後の経済発展に役立ちました。一九九八年のアジア通貨危機で台湾の衝撃が比較的小さかったのも人材がいたからです。外国に行った留学生たちはITとかの発展に役立っています。
宝田 古いものと新しいものの調和が必要だと思います。日本は明治維新、第二次大戦の後、次々と古いものを捨ててきましたが、はたして良かったのかどうか。
欧陽 アドバイスがあればどんどん言ってほしい。シンガポールのリー・シエロン副首相がこの間、台湾に来ました。その時もいろいろ助言をもらいました。欠点があれば素直に直す精神は大切です。新しいものと古いものとの調和はおっしゃるように重要です。古いものは発展の礎なのです。
一九八八年、台湾は(民主化という)外国が三〇年でやるべきことを一度にやりました。それから二〇年、徐々に軌道に乗りました。古いもののよい部分は残さなければなりません。「古い幹に新しい枝をつける」という宋美齢の言葉があります。
大塚 きょうは二つのお礼を言いたい。ひとつはわれわれに貴重なお時間をいただいたこと。二つ目は、一九日に芝山巌の六氏先生碑を訪ねたのですが、あの六人の中にわたしの曾おじいさんがいます。楫取道明といいます。碑を整備していただいた上、お墓まできれいになっていました。
欧陽 芝山巌はよくハイキングで行きます。今度行ったときにお参りしたいと思います。
大塚 ひとつ考えてもらいたいこと、一緒に考えたいことがあります。台湾は対米、対日、台中のことを考えていると思いますが、アジアの中の台湾についても考えてほしい。私は国際平和協会の評議員をやっていますが、将来、シンクタンクをつくりたいと思っています。シンク・アジアというテーマです。台湾のアジアの中の位置についてうかがいたい。また一緒に考えたいと思います。
欧陽 確かに台湾にとって米日中のウエイトは大きい。日米は外交部の仕事。中国は特別に大陸委員会という組織が処理しています。ASEANは裏庭のような存在ですが、台湾には「南考政策」というものがあります。南アジアもまずます密接な関係になりつつあります。インドやバングラデシュには広いマーケットがあります。そういう国々にどういうサポートができるかという問題があります。われわれの五〇年の経験をインドやバングラデシュに伝えることができると思っています。
アジアでは自由貿易地域(FTA)が盛んですが、台湾も力を入れています。アジアでFTAを締結するときに台湾を忘れてもらいたくないです。
欧州連合(EU)では加盟国が一五から二五へと増えました。アジアにはまだそういうものはありませんが、重要なことは、そこで主権に対する概念が調整されてきたことです。従来、主権は分割できないということになっていましたが、EUはそうではない。EUの例をわれわれもシェアする、分かち合うことができると思います。
衛生保健の領域で世界保健機関(WHO)がありますが、SARSの時、われわれは主権国家でないということで加盟できなかった。アジアの国々は今後、主権の概念は変えなければいけない。さきほど、シンクタンクの話がでましたが、そういうことが一緒にできるならば、アジア太平洋地域全体の統合にも役に立つと思います。共同体形成に向けて研究したらどうかと思います。またのお越しを心からお待ちしています。
宝田 一〇月一〇日は双十節ですが、日本ではこの日の意味を知らない人が多いです。双十は孫文の革命に挺身した日本人と貴国先達に対する感謝と哀悼の日なのです。日本でも式典が開かれますが、招待された日本の政治家は新幹線の話や儀礼的挨拶しかありません。台湾側からもぜひ歴史を語ってほしい。
欧陽 古い伝統は進歩のために必要です。社会の進歩のために違う意見を聞き入れることも必要です。(編集責任:国際平和協会事務局)