球界を閉鎖系から開放系へ(1)スト決行は変革の第一歩
執筆者:成田 好三【萬版報通信員】
労働組合・プロ野球選手会が9月18、19日のストライキを決行した。当然の結論である。選手会は、ある理由からストを決断せざるを得なかった。ここでストを回避してしまえば、時代遅れで制度疲労が露わになった球界のシステムを変革する機会を失うからである。現行システム維持に汲々とする経営者側と同じ立場に立たないためである。
9月16、17日の「労使交渉」(経営者側は選手会を労働組合とは認めていない)の焦点は、来季から新規参入が認められるか否かだった。
選手会が求めていた近鉄・オリックスの合併1年延期は、実現の可能性はもともとなかった。球界の最高意思決定機関であるオーナー会議の決定事項だったからである。さらに、近鉄には来季以降、球団を経営し続ける意思などなかったからである。選手会もその事実は理解していた。
選手会が、交渉によって得ようとした結果は、新規球団の来季からの参入である。選手会の要求を球団側は拒否した。それで、スト決行は決定した。
球界への新規参入に名乗りを挙げたライブドア、楽天とも来季からの参入を前提にしていたからである。生き馬の目を抜くようなIT産業の経営者であるライブドアの堀江貴文氏氏、楽天の三木谷浩史氏が来季の参入を阻まれた上で、2006年以降の参入までじっと待っているだろうか。
彼らにとって、球界再編論議が日本中の注目を集めるこの時期の参入こそ、「ビジネスチャンス」である。セ6球団、パ5球団の変則的リーグ運営に失敗した後の参入には意味がない。パ・リーグ側は、来季5球団の構成ではリーグがもたないと主張していた。9月29日の臨時オーナー会議で来季からの新規参入が認められることに意味がある。
選手会が来季からではなく来季以降の参入に同意することは、新規参入を阻みたい経営者側と同じ立場に立つことになる。それでは、戦後50年あまりも「化石」のように変わらなかった、時代の変化に対応してこなかった経営者側と変わらないことになってしまう。
9月19日付読売社説は、交渉決裂・スト決行の原因を選手会の弁護士と強硬派の一部選手にあると批判している。選手会の古田敦也会長の意に反した決定だと言いたいのだろうが、お門違いの主張である。
労働組合の会長は組織の中央に立たなければならない。組織内には穏健派も強硬派もいる。強硬派の主張が通った結果だとしても、それは古田会長の判断の範囲内である。もしそうでなければ、古田会長は即刻辞任しなければならない。
読売が責任を問わなければならないのは、19日付で会見記事をトップに扱った根来泰周コミッショナーである。スト回避に至った前週の交渉には関わらなかった根来氏は、今回の交渉を前に「見解」を提出し、その文書に沿った解決な成されなければ辞任するとした。たった1回だけ交渉に関わっただけで、自身の主張が認められなければ辞任するという態度は「恫喝」とさえ思え、球界の最高責任者の対応とはいえないものである。
球界は、現行の閉鎖系システムを開放系システムに変革しない限りは生き残れない。選手会のスト決行は、球界を変革するためには避けられない第一歩である。(2004年9月19日)
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