21世紀に入っても日本経済は官主導が続いていた。小泉純一郎が郵政民営化を掲げて首相になった。流れは「官」から「民」となった。その延長上に民主党が2009年総選挙で圧勝し鳩山由紀夫内閣が誕生した。僕もその流れを是とした。ところが、官僚たちは官の仕事の民営化までは許したが、民主党政権には抵抗した。霞が関がこぞって官邸に情報を挙げなくなった。最たるものが2011年3月11日の東日本大震災だった。福島原発のメルトダウンが始まっても「ウソ」を貫いた。僕には霞が関によるサボタージュと映った。鳩山さんは普天間でつまづき、菅直人さんは原発で退陣した。3人目の野田佳彦さんは党首討論で「衆議院の定数是正と定数削減を中心とする選挙制度改革法案の成立」を条件に解散総選挙をすると安倍晋三さんに約束し、その通りにした。安倍さんは政権を奪還した後、その約束を反古にした。自民党が政権に返り咲き、霞が関官僚は息を吹き返した。

 自分が水道民営化に反対して高知市議選に立候補して分かったことは、民営化は決して行政の効率化に役立っていないということだった。指定管理による「民営化」では年々コストが切り下げられるだけで、高知のような賃金水準の低い自治体では民間給与にまで悪影響を与える事態を引き起こし、賃金の逆スパイラルを誘引しているといか思えない事態となっている。仕事を民間に移しても、民間の創意工夫はほとんど認めず、約束事ばかりで縛つのが常。地方の役所を俯瞰してみると、役人は自ら汗を流さず、下請け民間企業の「管理監督權者」としてのさばるばかりにみえるのだ。

 官業の大半は民間でできる(日経新聞社説2004.8.4)
 役人の仕事の多くは非効率だし、サービスが悪い。それらを民間に任せればコストは下がり、質は向上しおまけにビジネス機会や雇用の創出に役立つかもしれない。一石三島ぐらいの効果を期待できるだろう。
 政府の規制改革・民間開放推進会議(議長、宮内義彦オリックス会長)は三日、今年末の答申に向けた中間とりまとめを決定、その中で官業の民間への開放を促すため、官と民との競争入札を実施して価格・質両面で優れている方に仕事を任せる制度(市場化テスト)を提言した。
 すでに米国では航空管制、上下水道の管理運営、刑務所の運営、救急車での患者搬送など、また英国では廃棄物の収集・処理、清掃などに官民競争入札制を採用している。
 役所の仕事で民間に任せられないのは、実際には自衛隊の任務など一部に限られるだろう。民間に委ねると個人情報の漏えいなどが心配と思いがちだが「みなし公務員規定」を適用し守秘義務などを課せば問題はない。現に駐車違反の取り締まり業務を民間に委託しているところもあるが大きな問題は生じていない。
 提言はまず国の事業について今年度中に市場化テスト法(仮称)の整備に向けた検討をし、2006年度に全面導入するよう求めている。
 対象事業では、給付・徴収、公的施設の管理など六分野での仕事を例示している。その中で特許審査や医薬品製造承認のための審査は、民間に委ねれば早く作業が進む可能性がある。刑務所の維持・運営や警察の物損事故処理は、忙しい刑務官や警察官に、より重要な仕事に注力してもらえる利点がある。さらに動植物の検疫などは民間が手がけることで強化できるとみられる。
 財政難で公務員の数を増やしにくい情勢だけに、公務員の仕事も「選択と集中」を求められる。一方、公正な官民入札で役所が勝つようなら、それはコスト削減など努力の結果だろうから歓迎すべきことだ。
 官民入札にあたっては官の側のコストを正しく開示し透明・公正なものにすることが肝心である。また入札を含め全体を監視する「第三者機関」は民間人主体に運営し、役人の身勝手な行為を防ぐ必要がある。
 今回の提言は規制改革について、保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」の年度内解禁など、医療、教育、職業紹介といった分野を中心に検討を進める方針という。
 官業の民間開放や規制改革は、財政・金融政策に限界がある中で経済活性化への重要な政策手段である。積極的に進めるべきである。