執筆者:中野 有【ジョージワシントン大学客員研究員】

イラクへの自衛隊派遣や北朝鮮の問題と国際舞台における日本の役割が期待されている。戦後60年近くを経て、日本のかじ取りが最も必要とされる年になると考えられる。このような時こそ、世界観と歴史観を持って、日本のビジョンを明確に示さなければならない。
福沢諭吉は「和魂洋才」の四文字で日本のあるべき姿を表現した。明治維新後の西洋へのあこがれと、科学、技術、文化を大きく吸収しようとする気概が伝わってくる。
一方、大隈重信は「東西文化の調和」という本の中で、「和魂漢才」という表現で、東洋思想やアジア主義の重要性を伝えている。この偉大なる先人に共通するのは、日本の長い歴史とアジアの東の果てのすばらしい自然環境の中ではぐくまれた純粋な「日本のこころ」を基軸としているところである。
さて、現在の日本に適した四文字のビジョンをいかに表せばいいのだろうか。日本は、仏教、儒教、キリスト教と、和魂を失うことなく、ほどよいかげんで導入し、調和させてきた。戦国武将も、当時の東西思想や先端の技術を海外からとり入れてきたのである。
この百有余年の歴史をたどってみても、日本は、富国強兵、戦争、敗戦、世界一の開発援助国と変化してきた。時代の変化がそうさせたのであるが、要は多様性と柔軟性を備えたお国柄なのである。そして、その源泉は、やおよろずの神(八百萬の神)を崇拝するという、世界でもユニークな宗教観、思想、風土にあると考えられる。
世界の潮流はグローバリゼーションであり、多様性への対応が重んじられる一方で、アメリカを中心にした一神教的な価値観が世界を席巻している。
パワーポリティックスによる強制的な行動では、平和は達成されない。愛国心は大切であっても、他国にそれを押しつけてはいけない。ワシントンでブッシュ政権の外交政策を見ていると、それを強く感じる。
中東には中東、アフリカにはアフリカのデモクラシーがある。アメリカのデモクラシーは進んだ段階であっても、決して世界の規範になるとは思われない。
重要なのは、東西文明の調和や先進国と途上国の調和である。多様性を認めるという「萬」がキーワードになると考えられる。そこで「和魂萬才」という四文字は、グローバリゼーションが進展する中、地球の多様性を認め、柔軟性に富んだ対応をするという意味で、日本のあるべき姿を表しているのではないだろうか。
和魂萬才の観点で北朝鮮問題を考慮することにより平和構想に柔軟性が見えてくる。対話も圧力も包括するのが萬の考えであるとすると、対話と圧力が対立するものでないと考えられる。ブッシュ政権の戦争関与政策では、危険すぎるし、韓国の太陽政策ではナイーブすぎる。従って、多国間進歩的関与政策が相応しい政策だと思う。では、この進歩的関与政策とは、現実的にどんな政策となるのであろうか。
日本の対北朝鮮への空気、即ち拉致問題を察すると、北朝鮮への経済制裁を避けて通れないようである。然からば、日本は北朝鮮に経済制裁を加えるべきであろう。北朝鮮への制裁なしでは、日本国民の感情が治まらないのなら、そうすべきである。歴史が物語るように国際社会の同意がない経済制裁は効力を発揮したためしがない。でも、この1年半ほど大した進展のない北朝鮮問題を鑑みると現在の状態から抜け出す政策が求められている。今から半年以内の経済制裁を仕掛けることにより、次にここぞとばかり登場するのが対話や建設的な関与だと信じたい。
ワシントンの空気に接していると北朝鮮の問題が大きく動くような気がする。理由は、フランスを除くEU14カ国が北朝鮮と国交を正常化させたことと、中国の東北3省への関与並びに6者会合を通じた多国間協力の推進である。これに遅れないためにも、まず日本は日本の意思で北への経済制裁を仕掛け、国民的感情に納得が見えてきた時点で多国間進歩的建設的関与政策に切り換えることを考えればいいと思われる。そんな「和魂萬才」の舵取りを期待したい。
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