執筆者:堀田 佳男【ワシントン在住ジャーナリスト】

司馬遼太郎はひとつの風景からその土地の情報をいくつも言い当てることができたという。歴史と民族を知ることでうちがわを洞察しえたのだ。

アメリカのさまざまな土地を車で走っていると、見慣れた風景に出会うことも多いが、ついわき見運転をしてしまうような眺めにもでくわす。そこからわたしがその土地の文化を的確に読めるわけではないが、断片的な情報を推察することはできる。

数ヶ月前、ミネソタ州ミネアポリス市の郊外を車で走っていたとき、削ったエンピツの先と思えるような木々が見事に整列している風景にであった。人間の背たけほどの針葉樹が何千本という単位で並んでいる姿は、金正日の前で行進する北朝鮮の兵士たちを彷彿とさせた。

「クリスマスツリーだな、これは」

アメリカの街角でナマのツリーが売られていることを知ったのは、映画『ある愛の詩』(1970年)で主演のライアン・オニールがアルバイトでツリーを売るシーンを観た時である。12月に入ると全米のいたるところでナマツリーの即売場が特設されて、車の屋根にヒモでくくりつけて自宅に持ち運ぶ人たちを目にできる。

そのナマツリーを育てている農場が全米にある。なにしろ、この時期に売りさばかれるナマツリーは全米で約2500万本。10億ドル産業といわれている。最近はプラスチック製のツリーを買う人も多いが、依然としてナマツリーの人気は高い。

自分でナマの木を買うようになるまでは、クリスマスツリーというのは「もみの木」という種類だけだと思っていた。ところが即売場にいくと、ダグラス・ファー、ホワイト・パイン、バルサム・ファーなど10種類ほどのツリーが出回っており、すべてクリスマスツリーだという。よく見ると葉の張りだし具合や形状、長さがすべて違う。ミネアポリスのツリー農園では3種類が育てられていた。

全米クリスマスツリー協会によるとその種類は59もあるという。驚くべきことである。協会では毎年ツリーのコンテストを催していて、優勝者はホワイトハウスにツリーを献上できる。全米のツリー農家にとっては最も名誉なことらしい。

「うちはホワイトハウス御用達だからね」

たとえブッシュ嫌いの農家であっても、大統領に贈れるとあってはイヤとは言わないらしい。今年の優勝者はウィスコンシン州でツリー農園を営むジム・チャップマン。3万本のツリーを育てている彼は1988年、98年にも優勝してレーガン、クリントンに献上している御用達の常連だ。

アメリカでツリーを家中に入れて飾りつけをするようになったのは19世紀半ばで、これはまぎれもない文化である。ここまで判ったのはもちろん調べたからで、車からツリー農園を一望し、立ち寄っただけでは表象だけしか察知しえない。わたしにはまだまだ勉強が必要なようである。

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