執筆者:堀田 佳男【ワシントン在住ジャーナリスト】

4年に1度の祭りがもどってきた。大統領選挙に立候補している民主党のハワード・ディーンとウェズリー・クラークをワシントンで取材した。

午前8時20分。朝の光をバックに、車から勢いよく飛びだしてきたディーンは、すでにテレビカメラを意識した薄い化粧をほどこしていた。思っていたよりもはるかに小さい人だ。並んで歩くと、170センチのわたしよりわずかに大きいだけである。数人のボディーガードがまわりをかため、選挙スタッフがそのあとを追う。その横から何人ものテレビカメラマンがバンザイをするようにしてカメラをむける。それはまるで祭りの神輿を担ぎ上げるような光景である。

彼の到着を待っていたサポーターは約250人。学生もいるが、年配の支持者が多い。ほとんどがインターネットで集会を知り、集まっていた。

サポーターの1人、メリーランド州の高校教師、ダン・ガーナーは「ディーンはクラークよりもずっと誠実な感じがする。大衆に迎合せず、自分の意見を正直に言うところがいい。すでにインターネットを通して20ドルの政治献金をした」と、ディーン支持の理由をはなした。

ディーンのサポーターのすぐ横には、クラークのサポーター約70人もいたが、数の上からも組織力という点からもディーン陣営がまさっていた。遊説先でサポーターをどれくらい集められるかは各州の選挙事務所の組織力にかかっている。さらにカネがどれほど集まっているかでも、現場のウネリの大きさはちがってくる。

いくぶんか高揚した表情で壇上にあがったディーンは、自身のキャンペーンについてこう自画自賛した。

「みなさんから、すでに2500万ドルの政治献金を頂いた。でも、大切なのは金額ではない。共和党のように金持ちから多額の献金をうけるのではなく、インターネットを通して20万人の方が平均77ドルという金額を寄付してくださったことに意義がある。これが本当の民主主義だ」

一方、クラークは34年間の軍人生活が身にしみついているせいか、いまだに演説慣れしておらず、聴衆のまえでは表情がかたい。ディーンが集まったサポーターのヤンヤの喝采を増幅させられるアンプを体内に備えているようであるのに対し、クラークは青い蛍光灯をあてられたような感じである。支持率では、クラークがブッシュを抑えるほどだが、ディーンかクラークかと問われれば、わたしはディーンに軍配をあげる。これは二人の遊説を間近でみた印象である。

ディーンは最初からイラク戦争に反対し、福祉政策や環境、労働問題などでもリベラルな政策を打ち出して、ブッシュとは政治的に正反対の位置にいることを強調している。ところがクラークは、民主党から出馬表明した9月17日直前まで、共和党で出馬する可能性もあり民主党員としての顔ができていない。政策面では共和党員の支持を取りつけられる中道派の立場だが、わたしは穏健派を貫いて共和党に大敗した88年のデュカキスを思い出さないわけにはいかない。さらにクラークの横顔に、優等生特有のひ弱さを垣間見る。

それでは、ディーンが予備選を制して民主党の代表候補となり、来年11月にブッシュと戦った場合、ディーンはブッシュに勝てるかというと、わたしはブッシュの再選が濃厚だと思っている。それは共和党の結束力が民主党よりはるかに大きいからだ。一方の民主党は分裂とまではいかないが、リベラルと穏健派で割れている。

クラークが共和党から出馬していたらブッシュ陣営に風穴を開けていただろうが、クラークが民主党に移ったいま、共和党の結束力はつよい。さらにカネの集まり方がディーンの比ではない。来夏までに200億円ほどを集める勢いだ。カネと票の関係は正比例するわけではないが、強い相関関係がある。

8月の失業率は6・1%で労働者からの不満はあるが、アメリカ経済が今後半年で不況に突入する見込みはひくい。たとえイラクにまつわる諸問題が来年まで尾をひき、支持率が落ちても、それが再選を阻止する大きな要因になるとは考えにくい。というのも、中西部を中心に、「サイレント・マジョリティー(もの言わぬ多数)」がつくられているからだ。

ベトナム戦争時の72年、ニクソンが反戦運動に直面してもマクガバンをやぶって再選をはたせたのは、このサイレント・マジョリティーが票を入れたためだった。シュワちゃんがカリフォルニアを制したことで、大票田の同州が共和党の手におちたことも大きい。アメリカの大将ブッシュは、いま窮地に立っているように見えるが、民主党よりは固い基盤のうえにたっていることは間違いない。(「急ぐがばワシントン」2003/10/09から転載)

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