執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

日本経済の先行きに曙光がみえてきた。2日の東証株価平均が9500円台を回復、大商いを伴いながら1万円が射程距離に入ってきたといってよさそうだ。特に1日は前日のニューヨーク株式の下落にもかかわらず株価が上昇し、このところの米国連動型とは違う動きをしたことが注目された。

それにしても小泉首相はつくづく運のいい人だと思う。総裁選を控えて株価という強力な援軍が現れたからだ。このまま株価が回復すれば「デフレ克服に景気対策が不可欠」と声高に叫んできた抵抗勢力は顔色を失うことになる。総裁選で対抗馬を出すことさえ難しくなるかもしれない。

萬晩報は半年以上も前に「V字型回復を素直に認めよ」というコラムを書いた。その時も、企業業績は底を打って収益回復基調にあると考えた。問題は資産デフレによるマイナス要因だけである。地価はまだ下がるはずだが、株価の回復によってせっかく稼いだ営業利益が目減りする恐怖は相当程度、軽減される。

景況感の改善は1日発表の日銀短観にも現れている。大企業製造業の業況判断指数(DI)は「マイナス5と2期ぶりの改善」だった。、前回3月調査でのDIはマイナス10。悪化したといっても「マイナスはたった1ポイント」でしかなかった。イラク戦争開始という負の真理要因を差し引けば「実質改善」だったともいえた。その前の12月調査では「DIはマイナス9と3期連続の改善」だったから、景況DIは昨年3月調査のマイナス38をボトムに実質5期連続して改善してきたことになる。

業況判断DIは景況判断を「良い」「さほど良くない」「悪い」の3段階で尋ね、「良い」の回答比率から「悪い」の比率を差し引いた指数。まだマイナスだから「景気基調」とまでは言いがたい。だがここ1年の特徴は足元の景気について「改善傾向」を認めながら、先行き(3カ月先)の見通しが悲観的になっていたことである。企業家マインドとして、現時点で「景気をそこそこ」と感じても将来に悲観的になるのは、長期デフレの習い性だったのかもしれない。

この1年の日銀短観を振り返ると、企業家マインドを裏切って景気は改善を続けてきたということになる。この間、日本経済新聞が日銀短観に関してどのような見出しをとってきたかを検証すると興味深い。2002年07月01日「大企業の景況感改善・1年9カ月ぶり」2002年10月01日「景気に足踏み感 大企業製造業改善4ポイントに縮小」2002年12月13日「大企業製造業DIは小幅改善 予想指数、7期ぶり悪化」2003年04月01日「景況感5期ぶりに悪化 景気停滞鮮明に」2003年07月01日「景況感2期ぶりに改善 株価、米経済に期待」どれをとっても明るい兆しはみえてこない。ことし4月1日のたった1ポイントのDIのマイナスに対して「景気低迷鮮明に」とはあまりにも大げさではなかったかという批判もある。世の中3カ月もたてばすべてが忘却のかなたなのかもしれないが、萬晩報は忘れない。調査結果の中でなるだけ悪い情報を見出しにとってきたのは他の大手メディアも横一列である。

特に今回の調査で目立ったのは設備投資である。大企業製造業の場合、2003年度11.5%増を計画している。前年は17.4%減。二けた増というのはここ10年記憶にない。企業家が本音では景気回復を感じている証左でなくてなんであろう。

筆者は東証平均株価が2万円になったり、3万円の価値があるとは思ってはいないが、少なくとも9000円台では安すぎると考えている。不良債権処理に足を引っ張られる金融機関、ゼネコン、流通業が少なくない中で、一方では千億円規模の史上最高益を更新する企業が相次いでいるのが現状である。これだけ成熟した日本経済がすべての分野で好調になるはずもない。企業業績の向上を「リストラ頼み」「輸出依存」などと揶揄するのはもういいかげんにしたらいい。戦後日本経済はいつだって「輸出依存」だったし、「リストラが進まない日本社会」を批判し続けたのはわれわれマスコミではなかったか。

リストラに痛みがあるのは当然であろう。IBMの例を見るまでもなく、リストラを乗り越えて企業は再び採用も増やしていくものなのである。