ビンラディンの勝利(Guardian紙翻訳)
執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】
2002年03月26日(水)
萬晩報主宰 伴 武澄「ビンラディンの勝利」と題して英ガ-ディアン紙に掲載されたオックスフォード大学のドーキンズ教授のコラムを、イギリス在住の読者が翻訳して送ってくれた。対イラク戦争こそがオサマ・ビンラディンが望んでいたことで、アメリカはビンラディンの罠にはまってしまったというのである。またブッシュのような危険人物を指導者に選んでしまうアメリカの民主主義に欠陥があるのではないかとも結論付けている。原文を読んだ読者もいると思うがあえて、その邦訳を転載したい。
(伴武澄)
この悲惨な過ちを引き起こした政治体制
リチャード・ドーキンズ・オックスフォード大学教授
SaturdayMarch22,2003TheGuardian
http://www.guardian.co.uk/alqaida/story/0,12469,919618,00.html
オサマ・ビンラディンが熱望していた夢の世界がこれ以上願ってもない形で訪れた。真珠湾以降、かつてないほど、世界規模、最大の同情が膨らんだアメリカへの挑発行為を起こしてから約18カ月後、国際親善が無駄にされ続け、国際的な善意の交流がゼロの状態に到達した。ビンラディンは、きっと自分で祝杯を挙げていることだろう。そして不信心者達は、イラクのブラックホールへまさに飛び込もうとしている。ビンラディンが長きに渡って準備して来た巨大な悪魔との聖戦には、いつも世界規模のアメリカへの同情によって妨害されるかもしれない危険をはらんでいた。しかし、心配する必要は全くなかった。ブッシュ軍事政府の舵取りによって、万事予想通りにことが運んだ。すばらしいことにこの戦争で何が起ころうと、どうでも良いのだ。
ビンラディンの歪んだ観点から、どんなことを考えているか想像してみる。
もし、アメリカが迅速に勝利した場合、ブッシュは憎きサダムは取り除かれ、好ましいイスラム政権への道を開くという我々の仕事を達成してくれたことになる。さらにうまくいけば、2004年の選挙で本当にブッシュが勝つことになる。ついにはブッシュが鼻高々に己の所業を自慢をし始める時、これによって、不満に口を尖らせ、いきがって闊歩する若者が立ち上がり、憤慨して蜂起することを、今、想像できる奴などいるはずもない。我々は、攻撃目標が足らなくなって困ってしまうほど、たくさんの積極的な殉教者を獲得しようではないか。あの愚鈍でいけ好かないアメリカ人が勝利した方がまだマシだ。
「大量殺戮のために戦争を起こす」という主張は、不誠実であるか、または先見の明がなかったために怠慢に陥っていたことを露呈しているに過ぎない。もし、現時点で、そんなに戦争が本当に必要だというのなら、少なくとも2000年または2001年の選挙期間中に少しでも触れておく必要がなかったというのか?
ブッシュにしろブレアにしろ、それぞれの選挙民に対しこの戦争について、なぜ一言も触れなかったのか?
主要な政治家として、戦争に関する選挙公約を挙げたのはジェラルド・シュローダーだけだ。それも彼は反対している。
なぜブッシュは、ブレアが誠実ぶりながら忍び足で後ろに付いて来るのを見計らってから、突然イラクを侵攻するぞと脅し始めるのか?
何故、その前から行動しなかったのか?
答えは恥ずかしくなるほど簡単で、そして彼らにはそれを恥じ入る気配すらない。
筋が通らず、子供染みている。がしかし、ずべては2001年9月11日で変わってしまった。
大量殺戮兵器やサダムの自国民への残虐行為について誰が何といおうと、ブッシュがこの戦争を起こしても非難されないのは、多くのアメリカ国民そしてブッシュ自身も、これを9・11の復讐だと捉えているためだ。これは、もっと性質が悪い。これは完全な人種差別であり、また宗教に対する偏見だ。イラクがこの残虐行為に加担しているというほんの小さな仮説すらも立てている者は、誰もいないのだ。
世界貿易ビルを攻撃しのは、アラブ人だったンダヨな?それなら、アラブ人をぶん殴りに行こうぜ!9/11のテロリストは、イスラム教徒だったんだろ?じゃあ、イラキーもイスラム教徒だよな?それならオッケーじゃん。そこまで行って、最新ハイテク兵器をちょっと見せてやろうぜ。驚愕してビビるぜ。決まってるさ。
ブッシュは、この世界が、聖ミカエルの天使たちが悪魔ルシファーの力に対抗したという正義と悪の戦場だと本気で信じているようだ。我々はアマレク人を追い払い、ミディアナ人には自警団を派遣してこれを撃破し、その後、彼らの魂には神の裁きが下るであろう。こんなでっち上げの神学説で気分を高揚させれば、サダム・フセインとオサマ・ビンラーディンの区別が付くようになるまでに、かなり時間がかかる。ブッシュの忠実な支持者の中には、善と悪の最終戦争=アルマゲドンとその後の歓喜を呼び起こす前兆だとして戦争を歓迎する者までいるのだ。
私たちは、ブッシュが本当にこんな狂った宗教を信じているわけではないと仮定するか、少なくともそうではないと願うしかない。だが彼は、自分が神の代わりに悪魔の魂と戦っているのだと、本当に信じているらしい。当然トニー・ブレアはブッシュよりもはるかかに知的で有能である。しかし、自分が正しく、他の皆はほとんど間違っていると捉えている揺ぎない信念からは、何か神がかり的なものを感じるのだ。ブレアは力によって平和をもたらすという輩の邪悪でどこか疑わしい主張に対して憤っていたはずだが、しかし彼もまた悪魔を信じているのだろうか?
悪というものは、罪や(イラクという狂気の沙汰が起こる以前は、ブッシュのお気に入りの標的だった)恐怖と同様、独立して存在するのではなく、また精神でもなく、そして対決し征服すべき対象でもない。悪とは、手に負えない人々が巻き起こす手に負えない事柄の雑多な集まりなのである。このような手に負えない人々はどこの国にも存在する。愚かで気の狂っている人々や絶対に権力に近づかせてはならないような人々も存在するのだ。
ただ、このような危険な人々を抹殺しても何の役にも立たない。このような人々はすぐまた新たに入れ替わってしまう。私たちは、このような人々が権力の頂点に現れないよう、その社会制度や憲法、選挙制度を見直さなければならないのだ。サダム・フセイン同様、西側の我々も、罪を負わなければならない。米、英そしてフランスは、折に触れてサダムを支え、さらには軍備を与えたりすらして来たのだ。そして私たちは自慢の民主主義制度についても検討すべきなのかもしれない。私たちの選挙制度は自国のリーダーを選ぶ際、とんでもない過ちを犯すことのないよう、本当にキチンと整備されていたのか?そうではないか、このような過ちが、現在のきわめてひどい結果を導き出したのだ。
アメリカ合衆国の人口は、約3億。そこには地球上の人類の中でも、多くの教養があり、才能がある人々が住んでいる。ノーベル賞の受賞者数を始め、あらゆる教養ある功績を鑑みても、合衆国は世界を大きく引き離している。このような有能で才能に満ち溢れた人々を土壌に持つ国なら、きっと最も優秀な人材をリーダーとして選出するだろうと思うに違いない。しかし、一体何が起こったというのか?多くの予備選挙や議員総会、数々の演説やテレビ討論、1年以上も休みなしに続いた選挙活動の雑踏の末に、3億もの全人口の中から、頂点に浮かび上がったのが、誰あろう、ジョージ・ブッシュだとは。
アメリカの友人よ、私が君たちの国を愛していることはご承知だろうが、一体何がどうなったら、こうなるのか?ああそうだ、そうかもしれない。ブッシュはいわれているより馬鹿ではないかもしれないし、彼が見かけほど馬鹿ではないことも神はご存知なのだろう。どちらにせよ、君たちのほとんどが彼に投票していないことは私も知っている。しかし、私が言いたいのはそこなのだ。でしゃばるようで申し訳ないのだが、君たちのかの有名な合衆国憲法の何処かに、何かちょっとばっかり間違いがあるかもしれないのでは?
もちろん、特にあの時の選挙はデッドヒートで普通ではなかった。通常なら、選挙にはコインを投げるのと同じような同点決勝戦なんて必要ない。国内で優勢だったアル・ゴアは、選挙人団でもその得票差を広げていたが、デットヒートを展開したフロリダで、公正で偏見のない最高裁に持ち込まれ、同点決勝という判定を下されてしまった。その通り。ブッシュは一種のクーデターによって権力を手にしたのだ。これは憲法上合憲のクーデターだった。この選挙制度には、ずっと以前から問題が指摘されていたと言うのに・・・
選挙人団25票が一方からから他方へ動くことで、各個人の投票が州全体の誤差の中に深く埋没してしまうようなことは本当に起こっていいなのか?そして、選挙結果がこんなにも直接的に金に比例して決定するのならば、選挙で勝利する候補者は、とても金持ちであるか、金持ちに有利に取り計らう用意のある人間でなければならなくなる。それが本当に賢明な選挙だと言うのか?
ある企業が新しい最高経営責任者を探したり、ある大学が新しい学長を選ぶような場合、最適な人材を見つけるためには、想像を絶する労苦を費やすだろう。プロのヘッドハンティング会社によって、書面による審査や徹底した面接が何度も行われ、心理学的な適正テストが導入され、内々に調査もされる。それでも、まだ、間違いが起こることがあるのだ。
しかし、それは誤りを避けるためのたゆまぬ努力は必要ないということではない。恐らく、このような方法は、地球上で最も力のある権力者を選ぶには、非民主的なのかもしれない・・・が、ちょっと考えて欲しい。世界中で一番有能な所で、丸々1年かけて、新しいCEOを選ぶ方法とほんの少し違う努力を費やした末にブッシュを選ぶような会社と一緒に仕事をする気になるだろうか?
サダム・フセインは、イラクに大惨事をもたらし続けたが、直接の近隣諸国を超えた脅威となったことは一度もなかった。ジョージ・ブッシュは、世界に対して大惨事をもたらしている。そしてそれは、ビンラディンには願ってもないことだなの。(リチャード・ダーキンス:英国学士院の特別研究員、オックスフォード大学教授)
(原文)http://www.guardian.co.uk/alqaida/story/0,12469,919618,00.htmlBinLaden’svictory
Apoliticalsystemthat
deliversthisdisastrousmistakeneedsreform
RichardDawkins
SaturdayMarch22,
2003
TheGuardian
OsamabinLaden,inhis
wildestdreams,couldhardlyhavehopedforthis.Amere18monthsafterhe
boostedtheUStoapeakofworldwidesympathyunprecedentedsincePearlHarbor,
thatinternationalgoodwillhasbeensquanderedtonearzero.BinLadenmustbe
besidehimselfwithglee.AndtheinfidelsarenowwalkingrightintotheIraq
trap.TherewasalwaysariskforBinLadenthatworldwidesympathyfortheUS
mightthwarthislong-termaimofholywaragainsttheGreatSatan.Heneedn’t
haveworried.WiththeBushjuntaatthehelm,acamelcouldhaveforeseenthe
outcome.Andthebeautyisthatitdoesn’tmatterwhathappensinthewar.ImaginehowitlooksfromBinLaden’swarpedpointofview…IftheAmericanvictoryisswift,Bushwillhavedoneourworkforus,
removingthehatedSaddamandopeningthewayforadecentIslamistgovernment.
Evenbetter,in2004Bushmayactuallywinanelection.Whocanguesswhatthat
swaggering,struttinglittlepouter-pigeonwillthengetupto,andwhat
resentmentshewillarouse,whenhefinallyhassomethingtoswaggerabout?We
shallhavesomanymartyrsvolunteering,weshallrunoutoftargets.Andaslow
andbloodyAmericanvictorywouldbebetterstill.Theclaimthatthiswarisaboutweaponsofmassdestructioniseither
dishonestorbetraysalackofforesightvergingonnegligence.Ifwarisso
vitallynecessarynow,wasitnotatleastworthmentioningintheelection
campaignsof2000and2001?Whydidn’tBushandBlairmentionthewartotheir
respectiveelectorates?Theonlymajorleaderwhohasanelectoralmandatefor
hiswarpolicyisGerhardSchroder-andheisagainstit.WhydidBush,with
Blairtrottingfaithfullytoheel,suddenlystartthreateningtoinvadeIraq
whenhedid,andnotbefore?Theanswerisembarrassinglysimple,andtheydon’t
evenseemashamedofit.Illogical,evenchildish,thoughitis,everything
changedonSeptember112001.Whateveranyonemaysayaboutweaponsofmassdestruction,oraboutSaddam’s
savagebrutalitytohisownpeople,thereasonBushcannowgetawaywithhis
waristhatasufficientnumberofAmericans,including,apparently,Bush
himself,seeitasrevengefor9/11.Thisisworsethanbizarre.Itispure
racismand/orreligiousprejudice.Nobodyhasmadeevenafaintlyplausiblecase
thatIraqhadanythingtodowiththeatrocity.ItwasArabsthathittheWorld
TradeCentre,right?Solet’sgoandkickArabass.Those9/11terroristswere
Muslims,right?AndEye-raqisareMuslims,right?Thatdoesit.We’regonnago
inthereandshowthemsomehardware.Shockandawe?Youbet.BushseemssincerelytoseetheworldasabattlegroundbetweenGoodand
Evil,StMichael’sangelsagainsttheforcesofLucifer.We’regonnasmokeout
theAmalekites,sendaposseaftertheMidianites,smitethemallandletGod
dealwiththeirsouls.Mindsdopeduponthiskindofcodtheologyhaveahard
timedistinguishingbetweenSaddamHusseinandOsamabinLaden.SomeofBush’s
faithfulsupportersevenwelcomewarasthenecessarypreludetothefinal
showdownbetweenGoodandEvil:ArmageddonfollowedbytheRapture.Wemust
presume,oratleasthope,thatBushhimselfisnotquiteofthatbonkers
persuasion.Buthereallydoesseemtobelieveheiswrestling,onGod’sbehalf,
againstsomesortofspiritofEvil.TonyBlairis,ofcourse,farmore
intelligentandablethanBush.Buthisunshakableconvictionthatheisright
andalmosteverybodyelsewrongdoeshaveacertaintheologicalfeel.Hewas
indignantatPaxman’swickedlyfunnysuggestionthatheandDubyapraytogether,
butdoeshealsobelieveinEvil?Likesinandliketerror(Bush’sfavouritetargetbeforetheIraq
distraction)Evilisnotanentity,notaspirit,notaforcetobeopposedand
subdued.Evilisamiscellaneouscollectionofnastythingsthatnastypeople
do.Therearenastypeopleineverycountry,stupidpeople,insanepeople,
peoplewhoshouldneverbeallowedtogetanywherenearpower.Justkilling
nastypeopledoesn’thelp:theywillbereplaced.Wemusttrytotailorour
institutions,ourconstitutions,ourelectoralsystems,soastominimisethe
chancethatsuchpeoplewillrisetothetop.InthecaseofSaddamHussein,we
inthewestmustbearsomeguilt.TheUS,BritainandFrancehaveall,fromtime
totime,doneourbittoshoreupSaddam,andevenarmhim.Andwedemocracies
mightlooktoourownvauntedinstitutions.Aretheywelldesignedtoensure
thatwedon’tmakedisastrousmistakeswhenwechooseourownleaders?Isn’tit,
indeed,justsuchamistakethathasledustothisterriblepass?ThepopulationoftheUSisnearly300million,includingmanyofthebest
educated,mosttalented,mostresourceful,humanepeopleonearth.Byalmostany
measureofcivilisedattainment,fromNobelprize-countsondown,theUSleads
theworldbymiles.Youwouldthinkthatacountrywithsuchresources,andsuch
afieldoftalent,wouldbeabletoelectaleaderofthehighestquality.Yet,
whathashappened?Attheendofalltheprimariesandpartycaucuses,the
speechesandtheteleviseddebates,afterayearormoreofnon-stop
electioneeringbustle,who,outofthatentirepopulationof300million,
emergesatthetopoftheheap?GeorgeBush.MyAmericanfriends,youknowIloveyourcountry,howhavewecometothis?
Yes,yes,Bushisn’tquiteasstupidashesounds,andheavenknowshecan’tbe
asstupidashelooks.Iknowmostofyoudidn’tvoteforhimanyway,butthat
ismypoint.Forgivemypresumption,butcoulditjustbethatthereis
somethingateenybitwrongwiththatfamousconstitutionofyours?Ofcourse
thisparticularelectionwasunusualinbeingadeadheat.Electionsdon’t
usuallyneedatie-breaker,somethingequivalenttothetossofacoin.Al
Gore’smajorityinthecountry,reinforcinghismajorityintheelectoral
collegebutfordead-heatedFlorida,wouldhaveledajustandunbiasedsupreme
courttoawardhimthetie-breaker.Soyes,Bushcametopowerbyakindofcoup
d’etat.Butitwasaconstitutionalcoupd’etat.Thesystemhasbeenaskingfor
troubleforyears.Isitreallyagoodideathatasingleperson’svote,burieddeepwithinthe
marginoferrorforawholestate,canbyitselfswingafull25votesinthe
electoralcollege,onewayortheother?Andisitreallysensiblethatmoney
shouldtranslateitselfsodirectlyandproportionatelyintoelectoralsuccess,
sothatawinningcandidatemusteitherbeveryrichorpreparedtosellfavours
tothosewhoare?Whenacompanyseeksanewchiefexecutiveofficer,orauniversityanew
vice-chancellor,enormoustroubleistakentofindthebestperson.Professional
headhuntingfirmsareengaged,writtenreferencesaretakenup,exhaustive
roundsofinterviewsareconducted,psychologicalaptitudetestsare
administered,confidentialpositivevettingundertaken.Mistakesarestillmade,
butitisnotforwantofstrenuouseffortstoavoidthem.Maybesuchmethods
wouldbeundemocraticforchoosingthemostpowerfulpersononearth,butjust
thinkaboutit.Wouldyoudobusinesswithacompanythatdevotedanentireyear
tolittleelsethantheprocessofchoosingitsnewCEO,fromthestrongest
fieldintheworld,andendedupwithBush?SaddamHusseinhasbeenacatastropheforIraq,butheneverposedathreat
outsidehisimmediateneighbourhood.GeorgeBushisacatastrophefortheworld.
AndadreamforBinLaden.・RichardDawkinsFRSistheCharlesSimonyiProfessoratOxford
University.HislatestbookisADevil’sChaplain(Weidenfeld&Nicholson).