執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

ワシントンにいる中野有さんが萬晩報で昨年3月言い出した「平和の枢軸」。

「AxesofPeace」という掛け声がいまネット上を埋め尽くしています。

一度、検索エンジンで探してみてください。

イラク攻撃に反対する世界的市民運動のうねりはすごいものです。

インターネット時代に地球市民を敵に回すことの恐ろしさを

ブッシュ政権、ブレア首相は味わっているのではないでしょうか。

それにしてもブッシュ・アメリカは分からない。

アメリカの武力行使の道理が分からない。

イラクの国内体制はどうあれ、

ここ十年、イラクが国際社会にどんな迷惑をかけたのでしょうか。

ビン・ラディンの背後にいて同時多発テロに積極的に加担したとも

考えられませんし、現実に核保有国となったわけでもありません。

たった150キロの巡航距離のミサイルなどは

いまどきの観光用のヘリコプターにも及びません。

湾岸戦争の時は、イラクがクウェートに侵攻したことに対する明確な

「懲罰」的意味合いがあったのだと思いますが、

今回はどうやって戦争をはじめるのでしょうか。

世界の目がバクダッドに集まっているその最中にです。

ある日、突然・・・・、まあすでにイラクの南部は日々、

米英の空爆にさらされているのですから、いまさら

宣戦布告ということでもない。

ここで対イラク戦争を本格化すれば、

アメリカが建国以来築いてきた諸々の「理念」の一切合財が

崩壊することは間違いないでしょう。

アメリカという国は非常に不思議な国家だと考えていました。

これまで手荒いこともしてきましたが、

資本主義という弱肉強食の体制の中で独占禁止法という概念を作り出したり、

苦しみながらも人種差別をなくす方向で努力してきました。

戦勝国中心とはいえ、戦後は国連をつくり、IMF、ガット体制を築き、

外交敵対立や経済紛争を話し合いの場で解決させようとしました。

途上国への武力介入や貿易交渉などでの手前勝手な行為は

数限りなくあります。

しかし、圧倒的な武力を背景に

正義だとか平等だとかの「理念」を持ち出されれば、

相手国はグーの根もでませんでした。

19世紀末の帝国主義時代は列強が「利己」に動きました。

アメリカは「利己」に動きながらも、

不思議なことに、他を納得させる「利他」の

論理を必ず持っていました。

他の帝国主義国家と大きく違う理念で統合された体制が

新大陸に生まれたことは世界史的出来事だったと思います。

第二次大戦で日本が敗れたのがアメリカでなくソ連でなくてよかった。

百歩譲って日本国憲法がアメリカに与えられたものであったとしても

また日本国民に対する数々の陵辱があったとしてもそれがアメリカでよかった。

そう考える日本人がたくさんいたのです。

そう、アメリカの人々が持つ底抜けの陽気さや

善意に励まされた日本人はたくさんいたのです。

そんな説得力がアメリカの唱える「理念」とやらにありました。

しかし今回のブッシュ流のイラク叩きにはそうした理念がないのです。

ブッシュが「ならず者国家」だとか「悪の枢軸」だとか言い出したころから

アメリカの唱える理念が輝きを失せたのではないでしょうか。

アメリカ国民の自信消失ともなれば、

それこそ今後、アメリカが世界の警察官としての機能を果たすことが

できなくなります。

それだけではありません。「理念」による政治が失われることになれば、

ジョン・ロック以来、西洋社会が数世紀にわたって営々として築き上げてきた

民主主義に対する世界的信任もまた崩壊するのではないか

という気がしてきます。

世界は「平和の枢軸」をもっともっと強く唱えなければなりません。