執筆者:中野 有【ブルッキングス研究所客員研究員】

21世紀初頭のとんでもない戦争が秒読み段階に入った。ブッシュ政権の中で唯一、多国間主義の重要性を主張しているパウエル国務長官が、イラク攻撃への正当性をとくとくと訴えたのだからブッシュ政権の近視眼的な一国主義によるイラクへの武力行使を回避する人物がいなくなった。イラク戦に反対するシンクタンクの専門家も戦争回避は不可能に近いと考えているようだ。

戦争の結果、米国の孤立化による米ドルの下落、それに伴う輸出依存の日本経済の打撃や石油価格上昇により日本経済の低落に追い討ちがかかる。そして日本にのしかかるイラクへの復興支援。これら当然の現象に加え、世界を混沌とさせる不気味な「神の啓示」がすでに発せられているように思われてならない。

スペースシャトルコロンビアの飛行士の追悼式がワシントンの大聖堂で行われた。その大聖堂に日本人の像がある。その人物は、世界連邦構想を提唱し、EUの理念となった思想を築き、ノーベル平和賞の候補となった賀川豊彦(1888-1960)である。賀川が唱えた「宇宙の目的」に沿った世界平和や軍備縮小は、当然のことながらブッシュ政権には理解できぬ思想であろうが、賀川豊彦の像の前で戦争をはじめようとするブッシュ大統領の言葉はどのようにこだましたのであろうか。

1981年夏、イスラエルの戦闘機がバクダッドの核疑惑施設を爆撃した。このイスラエルによるバクダッドへの先制攻撃の10年後に湾岸戦争が始まった。恐らく、イスラエルの先制攻撃がなければイラクは核武装のもとで湾岸戦争を仕掛けたであろう。昨年9月に発表された米国の国家安全保障戦略は、この先制攻撃が参考になっているとみられる。

こともあろうにイスラエルのスペースシャトルの飛行士は、22年前にバクダッドの核疑惑施設を先制攻撃したときの副操縦士であった。テキサス州のパレスティンという場所の上空でシャトルは爆発し、ブッシュ大統領のクロフォードの牧場の近くに落下した。何たる偶然であろうか。

宇宙の目的によって人類は生かされている。と考えると、コロンビア号の宇宙からのメッセージは何を意味するのであろうか。果たして今回の戦争を回避せよとの啓示か、戦争遂行後の不吉な結末を意味するのか。

因果応報。米国を改めるために21世紀初頭のイラク戦争は発生するのか。イラク戦の次には北朝鮮が確実にターゲットになる。ドミノ現象のように戦争が続くのか。平和構想は存在するのか。

1962年のキューバミサイル危機に瀕し、ケネディ政権は、戦争回避のための国連演説を行った。そして、キューバのミサイルで米国が攻撃されたときにはソ連を攻撃するとのハードパワーを最大限に生かすと同時に、ソフトパワー(社会資本整備や諜報ネットワークを含む)として平和部隊を創設した。先制攻撃を主張する強硬派を説き伏せ、ケネディーの平和構想により一時的にせよデタントが成立したのである。

しかし、キューバ危機から41年後の今日、ブッシュ政権は戦争回避の国連演説でなく戦争の正当性を訴えるパワフルな国連演説を行った。無法国家に対し無法の戦争を正当化している米国に対し、フランスを中心に、国連の査察の強化を訴えた。

カーター大統領は、国連の査察団の強化により戦争が回避できると訴えている。ケネディ大統領はアメリカ人を中心とした平和部隊の創設を行い緊張緩和の部分的役割を果たしたとすると、現在においては多国間主義による平和部隊、すなわち国連の平和部隊をIAEAの査察の強化に加え新たに創設することでイラクの危機を回避できるのではないだろうか。

ペルシャ湾に米軍が駐留すること自体、米国が意図するイスラエルのバックアップに寄与している。中東再編と石油の利権が今回の戦争目的であるとすると時間がかかろうが米国がその目的を達成しつつあると見られる。国際テロ撲滅のためには、軍事制裁よりむしろ諜報活動を伴う国連平和部隊が重要な役割を果たすのではないだろうか。市民が参加できる平和構想がきっとあるはずだ。

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