執筆者:中野 有【ブルッキングス研究所客員研究員】

韓国で反米感情が高まっており、ある調査によれば、一時的にせよ米国の強硬な対北朝鮮政策の影響からか、どうやら韓国の米国への信用度は北朝鮮以下と出ている。しかし、少なくとも韓国の盧次期大統領は、リンカーン大統領を尊敬されているようだ。

盧次期大統領は、リンカーンの生い立ちに似ており、また住民の想いを伝える手法はリンカーンを真似ている。偶然にも共に16代大統領である。

盧次期大統領は太陽政策を継承するが金大統領より遥かに実利的で柔軟性に富んだ対北朝鮮外交が展開されると期待される。太陽政策の具体的プロジェクトとして、北朝鮮へのエネルギー支援という小さな枠に収まらず北東アジア諸国がすべて共有できる「北東アジア天然ガスパイプライン構想」や新しい国際機関を誕生させるという「北東アジア開発銀行構想」が推進されると考えられる。柔軟性については、小泉総理の靖国参拝後に訪問した川口外相とも会われたのは、それを証明している。

では、ブッシュ政権との連携についてどのような展開が考えられるのであろうか。

ブッシュ政権の対北朝鮮政策においては、核施設への先制攻撃という軍事的関与はゼロに近く、外交、政治、経済という融和政策が模索される。その中でも外交においては、「対北朝鮮封じ込め政策」といった対話なき外交政策が執られた。これは疲弊している北朝鮮が自ら国際ルールに則った行動に出ることを期待したものであったが、対話なき外交の結末は明らかであった。軍事というムチも経済協力というアメもない現在のブッシュ政権の政策が機能するはずもなく、対北朝鮮政策の見直しが検討されている。

日米韓の枢軸の影響もあり、ブッシュ政権は、北朝鮮が大量破壊兵器に対し建設的な妥協を行うことにより、安全保障の確保、大きな経済協力そして不可侵条約の分野までかなり踏み込んだ可能性を示唆している。

北朝鮮の核カードによる瀬戸際外交が効いたとの判断はされるべきでないが、北朝鮮の核や士気の高い軍事力による抑止力が効いたゆえに同じ悪の枢軸であるイラクと北朝鮮では、現時点では戦争と平和といった対極的なシナリオも成り立つ。

和平のためには相対する国の共通の利益の合致点を探ることが重要である。北朝鮮と国際社会との共通の利益とは、明らかに安定と繁栄にある。北朝鮮にとっては1にも2にも金体制の存続であり、国際コミュニティーにおいては経済をベースにした安全保障の構築と北朝鮮というブラックホールがラストフロンティアに変貌することによる経済的波及効果への期待である。

北東アジアにおいて相対する体制や国を結びつける21世紀の薩長同盟のような奇策が求められる。その奇策とは紛争を未然に防ぐ予防外交に力点をおいた実利を重んじた北東アジア諸国や欧米が納得するプロジェクトであろう。プーチン大統領は、鉄道外交やエネルギー外交といった実利を重んじた外交を実践している。ブッシュ大統領からは、北朝鮮の出方次第によってはマーシャルプランに並ぶ大きな開発構想が飛び出る可能性もある。中国の胡錦涛総書記や韓国の盧次期大統領といったアジアのニューリーダーが登場する北東アジアはますます面白くなる。

閉塞する日本が蘇るためにも、小泉総理に21世紀の北東アジアの白いキャンバスに夢とロマンを描く「北東アジアのグランドデザイン」日本経済評論社 今月発売 http://www.nira.go.jp/pubj/niranews/200301/n07.htmlを託したい。

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