執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

1月8日付静岡新聞朝刊の企画記事「創造2003」に日本自然エネルギーの正田剛社長のインタビューが掲載されていて興味深く読んだ。

日本自然エネルギーは、電力を売るのではなく、風力発電を中心に自然エネルギーを需要家である企業につなぐ会社。「グリーン電力認証システム」の発行を通じて環境問題に貢献しようということらしい。正田社長は「1Kw時当たり約4円高い電力料金を負担していただくだけ。そこに価値を見るのかどうか」と答えている。

すでにソニーやアサヒビールなど24社が導入を決めていて、「ソニータワーの使用電力をすべてグリーン電力でなかなうことにした」「アサヒビールは神奈川工場の利用を決めた」「トヨタ自動車は将来、ハイブリッド車のプリウスもグリーン電力で作ったことを証明したい」などとホームページにそれぞれ導入にあたっての抱負を述べている。

日本もようやくここまで来たかという感慨がある一方で、ヨーロッパで起きている革新的出来事と比べて、まだまだスタートラインにも立っていないという危機感にさいなまされた。

2002年9月時点のヨーロッパの風力発電の能力は2044万Kw。これは平均的な原子力発電の20基分に当たり、1000万世帯の電力需要に匹敵する。能力の増強はここ6年、毎年40%増の勢いだそうだ。最も力を入れいているドイツは1065万Kwで消費電力の4%をまかなっている。2番目が251万Kwのデンマークだが、ここではすでに同18%に達している。

比べて日本の風力発電の事情はといえば、今年ようやく能力が50万Kwに達する見込みで、消費電力量の0.05%。四捨五入すれば「ゼロ」である。「失われた10年」などと評論している間にこれだけの彼我の違いが生まれたのである。

もっとすごいのは、欧州風力エネルギー協会が昨年9月のヨハネスブルグで行われた地球環境サミットで発表した「Wind

Force12」宣言だ。「ヨーロッパの成功はまだほんの序の口。8年後にはさらに10倍になる「」2020年までに風力発電が全世界の電力需要の12%をまかなう」と青写真を描いて見せた。そしてその時までに全世界のの風力発電能力は、現在の500倍以上の12億6000万Kwに達していると予測している。しかも「現在の技術の延長上で可能」としているのだ。

日本は世界でも最も電力コストが高い国で、エネルギーの代替が一番やりやすい環境にあったはずだった。にも関わらず、通産省以下、9電力が原発に固執したおかげで風力後進国に成り下がったのだ。

欧州風力エネルギー協会によると、「WindForce12」実現のために1330億ユーロの投資が必要ということで、風力発電は巨大な投資市場を提供するものでもあると語っている。風力発電はもちろん環境面から積極的に推進する必要があるのだが、プラント業界にとってもおいしい事業なのだ。市場が拡大すれば、当然ながら導入コストも下がり、やがて「風力は割高」というコスト問題も解消されるはずだ。

風力発電で風力発電プラントを作ることができるようになれば、それこそ「好循環」が始まる。2002年度の補正予算の10分の1でいい。風力発電に回せば、プラント業界もゼネコンも潤うし、地域も潤う。また風量プラントは原発のように建設に10年もかかるものではない。着工から数カ月で竣工するため、景気への即効性も高い。

そして何よりもソニーなど多くの優良企業は環境のためにコストを支払いたいといっているのだ。われわれ市民だって同じだ。自然エネルギー普及のために多少のコストは負担する覚悟はあるはずだ。

われわれが待っているのはそうした社会全体の発想の転換なのだ。発想の転換といいながら、自虐的に「失われた」などというのは2002年でおしまいにしたい。

きょう1998年1月9日に始まった萬晩報記念日。6年目に突入する。