魔女の油屋の果てしない物語
執筆者:園田 義明【萬晩報通信員】
■湯婆婆と銭婆
二人の娘を見送って、束の間の僕の夏休みが始まった。ひっそり静まりかえった部屋で寝っ転がってのんびりとビデオを見る。劇場にも2度足を運んだが、もう一度ゆっくりと見てみたいと思っていた。
「千と千尋の神隠し」は、なんとも不思議な映画である。舞台は日本なのに双子の「魔女」が登場する。双子の妹、湯婆婆が支配する湯屋の名前は「油屋」となっており「油」の旗がひときわ目立っている。
姉の銭婆は、森に囲まれてひっそり暮らしている。そこには西欧の風景があった。銭婆は、湯婆婆が欲しがる「魔女の契約印」を持っている。それでも魔法がすべてだと思っていないようだ。
■イラク・もうひとつの日本化計画
もうひとつの画面の向こうでは、連日イラク攻撃に向けたドラムの音が激しく鳴り響いている。当初は、より長く叩き続けることを目的としていたようだ。ローテーションを組んでシステマチックにドラマーが入れ替わっている。
どうやら、叩くだけに飽足らず、次の段階に突き進むことを決めたようだ。「油屋」の宴は、今なお盛大に行われるが、訪れる客はめっきり減ったようだ。彼らを支えてきた熱狂が、急速に冷めつつある。表面的にはまだまだ立派に見えるが、至るところに亀裂が目立ち始めている。長く叩き続ける間に大規模な改修工事をしたいのだろう。
ワシントン・ポストによると米国防総省幹部に政策提言している実力者揃いの「国防政策委員会」が、サウジアラビアを敵とみなし、テロリストへの支援を停止させるために最後通牒を出すべきだとする議論を行っていた。決して、長く叩き続けることをあきらめてはいないようだ。イラクの次を必要とするのは、彼ら自身が亀裂の大きさに気付いているからだろう。恐竜達を率いる“プリンス・オブ・ダークネス”ことリチャード・パールが、この委員会の委員長を務めているが、今回のリークは、委員会内部にパールと対立する勢力がいることを示している。
“火消し屋”パウエル国務長官が、すぐさま駆けつけ、サウド外相に釈明し
たが、メディアへの情報漏れに神経をとがらせているラムズフェルド国防長官
が、犯人捜し令を打ち出した矢先の出来事で、どうやら政権内部の亀裂も一層
拡がっているようだ。
そして、耳をすませば、ドラムの音に混じって「JAPAN」がかすかに聞こえてくるようになった。恐竜達は、「戦争を始めるのは得意だが、出口を探すのは苦手のようだ」と批判されて、苦し紛れに考えついたのが、「イラク・もうひとつの日本化計画」である。日本メディアでは、決して取り上げられることはないが、この計画を真面目に語るのは、いずれも恐竜達を代表する方々である。
■二匹のワンちゃんの行方
アメリカがイラク攻撃を決めたことで、慌てふためく日本の姿がある。つい最近までイラク攻撃はないと分析していたからである。8月8日、小泉首相は、都内の日本料理店で中曽根康弘、宮沢喜一、海部俊樹、橋本龍太郎、森喜朗元首相と、米国がイラク攻撃に踏み切った場合の対応をめぐり約2時間の意見交換を行う。
中曽根氏が「もし米国のイラク攻撃があれば、日本は厳しい状況になる。小泉・ブッシュの友情があるのだから、ちゃんと言うべきことは言わなければいけない」と忠告し、宮沢氏も「(攻撃には)大義が必要だ。単にフセインをやっつければいいというものではなく、その後のこともちゃんと考えなければならない」と指摘し、米国が国際社会から孤立しないようアドバイザー役を務めるよう促した。
しかし、はたして今から小泉首相が言うべきことを言えるのか疑問である。ブッシュ大統領は、今年2月の来日時の会談ですでにイラク攻撃を明言しており、小泉首相もブッシュ大統領に「テロとの戦いで日本は常に米国とともにある」と伝えていた。米側はこの会談で将来のイラク攻撃に対する日本の了解を取り付けたと受け止めている。今さら反対とは言えない立場に追い込まれているのだ。
この記事は、毎日新聞が日米外交筋からの情報として6月9日に報じたものだが、このやりとりは、2月18日午前に行われた少人数会合の席での出来事であり、同席者は高野紀元外務審議官とライス大統領特別補佐官(国家安全保障担当)の2人だけだった。4ヶ月近く遅れて報じられること自体極めて異例なことであるが、「(パックス・アメリカーナ)一極支配で蘇る日本経済」を信じて疑わない方々が日本の権力中枢に居座っているのである。
8月27日にはアーミテージ国務副長官が来日することが決まっている。おそらく戦費調達が目的であろう。そして優秀なビジネスマンはタイミングを見逃さない。ぎっしり埋まったブリーフケースには、アップグレードされた新イージス・システムの企画書も含まれているだろう。今度ははっきり明言するはずだ。「イージス艦を見せてほしい」と。
まもなくブッシュ政権は二匹の忠実なワンちゃんを引き連れてイラクへの攻撃を開始するだろう。しかし、プードル(ブレア首相)の方は、いつでも途中下車できる準備を整えていることを知っておく必要がある。
■「えんがちょ」
なにも学ばずに帰っていく千尋の両親。ハクもいつ戻れるかわからない。千尋の記憶だけが頼りとなるところだが、そうならないように宮崎駿監督がプレゼントしたものがある。それは、両親とともにトンネルを抜ける前とトンネルを抜けて現実に戻った時の二度、キラリと光る。銭婆とカオナシ、坊ねずみ、ハエドリが、魔法を使わずにみんなで紡いだ糸で編んだお守りの髪留めである。
大人になっても忘れて欲しくないとの想いから用意されたものだろう。千尋が大きくなって、もう一度ハクに会いたいと強く願ったとき、何かが変わるのかもしれない。
皮肉なことにフセイン後の手本の国で変化の兆しが見えてきた。魔法が解けつつあることにまだアメリカのジャパン・ハンドラーは気付いていないようだ。
「油屋」を陰で支えながらも千尋達を送り出す日本的な職人「釜爺」の姿がある。もう一匹のワンちゃんもそろそろ「えんがちょ」の練習ぐらい始めてもいい頃だ。
▼参考URL
■Iraq:TheDayAfter
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A35080-2002Jul19.html
■InvadeIraq,ButBringFriends
Doneright,aninvasionwouldbethesinglebestpathtoreformtheArab
world.
http://www.msnbc.com/news/786598.asp
■InEurope,talkischeap
http://www.washtimes.com/commentary/commentary-200282214.htm
■BritishTellBlairNottoBePresident’s’Poodle’
http://www.thenation.com/thebeat/index.mhtml?bid=1&pid=44
園田さんにメールは E-mail:yoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp