執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

世上を騒がしている4月からの「ペイオフ解禁」。だが「解禁」というのはあまりにも穏やかでない。制度的に言えば、新しいものではなく、元々あったペイオフという制度が、金融不安が広がった1996年の預金保険法改正で一時「凍結」していただけにすぎないから、ペイオフの「凍結解除」というべきである。

とはいえ社会的に摩擦を起こさないかといえば、そうでもない。預金をめぐる経済的環境が著しく変化した。金融当局の「金融機関は一行たりともつぶさない」というかつての護送船団的考えは完全に破たんし、「危険な金融機関は市場から撤退させる」方向に180度転換していてしまっているからである。

●円の価値が下がっても、預金が消滅することはない

最近、地方に住む知人などから、ペイオフ解禁を控えて預金はどうしたらいいのかという相談をいくつか受けた。

まず地銀はつぶれるかという設問については「ノー」である。つぶれるという概念であるが、仮に破たんしても、預金や貸し出しは必ず「受け皿機関」に引き継がれるということである。インフレによって「円」の価値が切り下がることはあっても、かつての戦時国債や株券のように紙屑になり、価値が消滅する可能性は著しく低いとだけはいいたい。

仮に万が一、預金が消滅することになれば、それこそ日本が沈没するとき以外にありえない。そのような場合には、ペイオフで保証されている「1000万円」だって返ってくるかどうかあやしい。

だから安心しろとか信頼しろといっているのではない。銀行経営が破たんしても、政府・日銀が当該銀行を全力で支えることは間違いないし、取り付け騒ぎとなりそうな場合には日銀はどんどん日銀券を印刷して、当該銀行に運び込むことになるということだけだ。ペイオフが凍結される前に破たんした和歌山県の阪和銀行の場合でも、預金を返してもらえなかった人は一人もいなかったことは覚えておいていい。

だから「どうしたらいいか」と問われれば、「そのままほっておけばいい」と答えるようにしている。国民が付和雷同して、預金を大量に預け替えたりすれば、引き出される金融機関からすればそれこそ「取り付け」的騒ぎとなる。また安全な銀行にばかり預金が集中するとはかぎらない。安全でも1000万円までしか預金されないとすれば、その銀行からレベルの一段低い銀行に預金が流出する事態だって起きるだろう。

小さな地方都市で、地銀、第二地銀の支店すらないところではどうなるのか。そもそも郵便貯金は「少額貯蓄機関」として1000万円までしか預け入れができないから、わざわざ大都市の銀行まで預け替えに出掛けなければならない。問題は多すぎるのだ。

●ペイオフ解禁は偽名口座の一掃と税金徴収が目的?

エース交易が発行する「情報交差点」3月号に、「ペイオフ解禁は偽名口座の一掃と税金徴収が目的」という記事が出ていた。なるほど、騒動を起こして銀行に「名寄せシステム」を構築させ、「偽名口座の洗い出しや脱税の温床を一掃する」というのは悪くないアイデアだ。ペイオフ解禁には確かにそんな側面もあるかもしれない。少なくとも結果的にそうした効果を生み出すこともあろうと思う。

しかし、筆者が考えるのは、そうではない。ペイオフ解禁に併せて、国債を国民に買わせようという魂胆もあるのではないかと考えている。国際的に日本の国債の評価が下がっているとはいえ、日本で一番安全なのは郵便貯金で国債は二番目といえなくもない。

何遍も書いてきているが、財務省にとって一番の関心事は「国債の消化」。つまり低金利で発行を続けられる環境を維持することである。財投資金は満杯。銀行もこれ以上買いたくない。日銀に買わせたところで、すべてというわけにはいかない。残るのは国民しかないのである。ひょっとしたら国債に対する「マル優」(金利への非課税制度)制度が復活するのではないかと思う。

またまた騒動の後に財務省がニヤリとする局面が・・・・とは考えたくない。

Q1.ペイオフとは:本来は金融機関が破綻した場合に預金保険制度に基づき、預金者に保険金を支払うことをペイオフという。現在の預金全額保護という特例措置が終わって、預金のうち1,000万円を超える部分が一部カットされることもあり得る、という意味で使われる。

Q2.預金保険制度とは:預金保険機構に加盟する金融機関の経営が破たんして預金の払戻ができなくなった場合などに預金者を保護する制度。預金保険機構は、政府・日銀・民間金融機関の出資により設立され、運営されている。