中国のGDPが日本のそれを追い越す日
執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】
ケ小平が1978年11月に改革開放政策を宣言して以来、中国経済は世界のすべての予想を裏切って成功を続けてきた。外資導入を狙いとした経済特区政策はものの見事に香港、台湾資本を魅了し、大連から珠海までつらなる中国大陸の沿岸地域はほぼ10年でベルト状の巨大な工業地帯と化した。
78年当時に掲げた「20世紀中に経済規模を4倍にする」という経済目標は当時、単なる政治的スローガンにしかないと考えられていたが、16年後の94年には軽くクリアしてしまった。そしてだれもが信じなかった上海の浦東地区開発もまた工業団地と高層ビルが林立する約束された地となった。
●為替ベースでもすでにG7の実力
1999年のGDPで比較すると、中国はほぼ1兆ドル、日本が4兆ドル、EUが6兆ドル、アメリカが8兆ドル。だから中国の経済規模は日本の四分の一というふうに単純にいくかというと、そうではない。この数字は1ドル=8・7元=120円という当時の為替レートで単純計算あいたもので、この為替レートが必ずしも実力を表しているとはいえないからだ。
日本の円はどう転んでも120円の実力はない。自動車など一部の産業に輸出競争力が残っているとはいうものの、今後とも円安傾向が続くものと見られ、仮に本来の実力である1ドル=160円程度にまで戻るとドルベースのGDPは3兆ドルにまで縮小してしまうことになる。
一方、中国元はいまだに国家管理通貨であり、97年のアジア金融危機で韓国やASEAN諸国の通貨が暴落した時も1ドル=8・7元を維持し続けたが、購買力平均では93年までのレートである1ドル=5元程度はゆうにある。だから実質的なGDPはもはや2兆ドルに近いといっても間違いない。いやもっと大きいかもしれない。
そしてこのことは、90年代の10%近い成長率ペースが今後5年程度続くだけで中国の実質的なGDPはたちまち日本の水準に肩を並べ、やがて追い抜くことになることを意味する。
日本にとって失われた10年が中国にとっては大躍進の10年だった。為替ベースで中国はすでにカナダのGDPを超え、世界第7位の経済大国に変貌しているのだ。1960年代の日本がそうであったように数年以内にイタリアを、そしてイギリスとフランスを抜くことは間違いない。言い代えると、参加こそしていないが現時点でもG7メンバーの資格があるというわけだ。
中国は昨年12月、世界貿易機関(WTO)に加盟したばかりだが、国家単位で見た中国の経済的実力はそういうレベルに達しているということなのだ。
●100年後に目覚めた眠れる獅子
中国はすでに対アメリカ貿易黒字額は日本を抜いて世界一となっている。日本の貿易黒字が縮小する中で、中国は確実に世界最大の貿易黒字国になる。中国がG7のメンバーになろうがなるまいが、世界経済に対して責任を持つ立場に立たされ、現在の1ドル=8・7元というレートは必ず見直しの対象となる。そして元高ドル安に誘導し、中国の内需を拡大、輸出を抑制しろという声が必ず上がる。
そうなれば80年代の日本と同じで、いずれ中国に対する新〈プラザ合意〉がもたれる可能性がある。プラザ合意のときの円は1ドル=240円、95年には最大瞬間風速、79円まで高騰した。もし、同じ割合で中国も元高に振れるとしたら、1ドル=3元という時代がやってきたとしても不思議でない。
名実ともに日本のGDPが中国に抜かれる日は10年後、20年後のことではない。日清戦争まで「眠れる獅子」と恐れられていた中国は100年後にようやくその眠りから覚めたのだということを世界はわきまえておかなければならない。これは絵空事でもなんでもない。現実なのだ。