執筆者:園田 義明【萬晩報通信員】

■追い込まれるブッシュ-テキサス・インナーサークル=旧テキサス共和国

フランス・ラザール・フレール出身のジャン-マリー・メシエ会長率いるビベンディ・ユニバーサルも凄まじい勢いでアメリカに乗り込んできた。メシエ会長自らがニューヨークに乗り込み陣頭指揮にあたっている。

現在でもフランス・ラザール・フレールと同盟を組むビベンディ・ユニバーサルは、米メディア大手USAネットワークスの株式の43%を取得し完全支配しつつある。そして新たに米衛星放送2位のエコスター・コミュニケーションズに対しても総額15億ドル(約10%)を出資することで合意する。

USAネットワークスは、今年7月にマイクロソフトからネット旅行社を買収したばかりであることも見逃せない。マイクロソフトとブッシュ共和党との蜜月関係が急速に冷めてきているようだ。

エコスターは、今年10月にルパート・マードック率いる豪メディア大手のニューズ・コーポレーションを退け、同業最大手でGM(ゼネラル・モータース)の傘下にあったヒューズ・エレクトロニクスを258億ドル(約3兆2000億円)で買収した。この買収合併により顧客数が1670万人米衛星テレビ市場をほぼ独占する規模となる。そして重要な点は、この買収資金の一部をビベンディ・ユニバーサルが提供することでも合意したことだ。

これまで見てきたようにじわじわとアメリカメディア分野が欧州勢力に追い込まれているのである。その中心にいるのは名門ラザードである。そしてこの影響はアメリカ内部の分裂にも発展しているようだ。顕著に現れているのがイラク攻撃をめぐるブッシュ政権内部の対立である。ともにグローバリストであるが、新世界秩序を最優先に考えるパウエル国務長官を中心とするグループとアメリカの利益を最優先に考えるウルフォウィッツ国防副長官のグループの対立である。

ラザードに代表される「欧州・貴族系グローバル企業」は、パウエル国務長官をもり立て、ウルフォウィッツ国防副長官の背後には、テキサスの利益を最優先に考える旧テキサス共和国の「ブッシュ-テキサス・インナーサークル」の姿が見え隠れしている。

しかし、「ブッシュ-テキサス・インナーサークル」も同時多発テロとエンロンの一件で戦略の見直しを行っているようだ。

12月12日、ブッシュ大統領は、ハイテク政策に関する助言を得るため、AOL・タイムワーナーのスティーブ・ケース会長、デルコンピュータのマイケル・デル会長、インテルのゴードン・ムーア名誉会長、そしてコムキャストのケーブル・コミュニケーション部門のステファン・バーク社長、ロッキード・マーチンのノーマン・オガスチン元会長などの有力企業幹部をメンバーとする科学技術諮問委員会を新たに設置すると発表する。

ブッシュ大統領は、石油などのエネルギー分野には熱心であるが、ハイテク分野に対する関心が大きくないと指摘する声が経済界から聞かれていた。さすがに慌てたのか有力企業幹部の囲い込みを始めたようだ。

この一報を伝えたのが世界を代表する経済新聞であるウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)だが、エンロンとブッシュ政権の関係を追及する動きを始めたのもWSJであり、その発行元は「ダウ平均」や「NYダウ」の生みの親でもあるダウ・ジョーンズである。従って1975年に提携して以来、一貫してダウ式による修正平均株価として算出してきた「日経平均株価」の生みの親ということにもなる。

現在WSJ以外にダウ・ジョーンズ・ニューズワイヤーズ、ファー・イースタン・エコノミック・レビュー、バロンズなどを発行しているが、このダウ・ジョーンズの取締役会にもバーノン・ジョーダンがいるのである。

また、ジョーダンが第2章で登場した世界第二位の金鉱会社バリック・ゴールドの国際諮問委員会のメンバーになっている点も注目していただきたい。パウエル卿とカール・オットー・ぺールとバーノン・ジョーダンが揃ってメンバーとなっているのである。そしてメディアからの圧力により辞任したのはブッシュパパである。

■戦争とメディアの関係

9月21日に全米の4大ネットワーク(ABC、CBS、FOX、NBC)が共同制作した同時多発テロ事件の犠牲者追悼チャリティ番組に登場したニール・ヤングは、ピアノを奏でながら「イマジン」を歌う。これが大きな話題になったことは日本ではあまり知られていない。実は「イマジン」は、放送自粛対象になっていたのである。

金融と軍事産業とメディアを操る集団が同一の方々である以上、秩序の安定を重視しながらも適度な緊張関係は好む傾向にある。また、社会的な混乱は彼らにとって最大の不安要素となる。バーノン・ジョーダンが取締役を務めるアメリカ最大のラジオ・ネットワークであるクリア・チャンネル・コミュニケーションズは、同時多発テロ発生後に同系列の約1200局に向けて、約150曲について放送の自粛を促す社内通達を出した。

「好ましくない」とされた曲のなかにはジョン・レノンの「イマジン」、ポール・マッカートニーの「007/死ぬのは奴らだ」、ビートルズの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・タイアモンズ」などが含まれている。

クリア・チャンネル・コミュニケーションズでは、「全国的な放送禁止措置」ではなく、何の曲が「好ましくない」かを判断し、具体的な放送内容を決めるのはあくまでも各地のラジオ局だとしている。

ワシントン・ポスト傘下のニューズウィーク誌は、12月15日、1003人の世論調査を公表した。この中でイラクのフセイン政権に武力行使すべきだとする回答者は78%に達していた。この数値を上げるも下げるも今後のメディアの報道の仕方によって変わるだろう。そして、その行方は再びラザードに代表される「欧州・貴族系グローバル企業」の手中に戻りつつある。

アメリカを牽制すべく、フランス政府は10月31日にメディアを使って爆弾を投げ込む。ウサマ・ビンラディンが今年7月にアラブ首長国連邦(UAE)の首都ドバイのアメリカン病院で腎臓病の治療を受けた際に、CIA(米中央情報局)と接触していたとする記事が世界に配信される。

報じたのはフランスを代表する新聞フィガロ紙であり、フランスを代表する石油メジャー、トタルフィナ・エルフのイラク国内の石油、天然ガス利権に絡むフランス諜報機関のリークと見られている。

そしてそのフィガロに約20%を出資しているのは、ブッシュ-テキサス・インナーサークルの中核に位置するカーライル・グループである。フランス政府の爆弾は、その大株主にダイレクトに投げ込まれたものであった。

欧州・貴族系グローバル企業に先手を打たれて、アメリカの次なる攻撃目標が狭められていく。適度な緊張関係が続くもののイラクもソマリアもその対象にはならないだろう。残された唯一のテロ支援国をめぐって、寄りによってこの時期に訳もわからず喧嘩を仕掛けるお馬鹿さんがいる。

またしてもこの日本は、奥深くへと引きずり込まれるのだろうか?(つづく)

園田さんにメールは yoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp