謎深まるフリゲート艦事件(4)
執筆者:文 彬【中国情報局】
2000年5月、国民党を破り新進党政権が発足してから、廉潔と情報公開を前面に掲げる陳水扁総統は、真相を追究する世論が高まるなか、自らの肝いりで最高検察署内に特別調査チームを編成させた。また、軍や政界に妨害されないよう、特別調査チームに様々な特権を与えた。7月31日の特別調査チーム発足式で陳水扁は「たとえ国本が脅かされても真相を究明する」とメディアの前で約束した。
そして4ヶ月後、特別調査チームは中間報告書を提出し、収賄、公文書偽造、軍機密漏洩、汚職などの疑いで前海軍総司令官を含め、大物海軍将校13名を台北地方検察署に書類送検した。中間報告によれば、海軍購買室が行なってきたほとんどの武器購入には、毎回必ず何らかの形で不正があった。多額の不正利益に政界、軍部、時にはマフィアまでもが群がり、軍需ブローカーと結託したり、相手勢力を牽制したりのし烈な戦いも日常茶飯事だった。そこでは軍の秘密も、政界の動きも取引のために使われていた。
この間、さらにショッキングな情報がマスコミに大きく取り上げられた。前総統の李登輝やその側近もフリゲート艦事件に手を染めたことがあり、億台湾ドル以上の資金が側近の銀行口座から李登輝の娘が経営しているアメリカンスクールに流入していたということだった。李登輝側はこれを全面否定したが、「火のないところに煙は立たぬ」が目下の真実のようだと、メディアはそれを裏付ける証拠を取ろうとしている。
だが、特別捜査チームが尹清楓暗殺事件とフリゲート艦事件について手に入れた確実な情報はあまりにも少なく、この2大事件は依然として五里霧中の状態にあり、世論の批判も厳しさを増すばかりである。
最近になって袋小路に入りこんだ特別調査チームは、パリの裁判に期待するようになった。パリの裁判でデュマやシルパン被告らが何らかの新しい事実を告白するのではないかと期待しているのである。そして、法務部顧問の謝聰敏はフランスやドイツに赴き関係者と直接会って情報を集めたりしており、また、外交ルートを通してフランス政府に働きかけ、ジュンクール夫人が言及したリベートを受けた人々のリストを入手するようと政府に呼びかけている。だが、現在はどれも難航している。
▼薬なき腐敗体質
香港の有力誌《亜洲週刊》(URL)は、今年の9月号で軍用自動車の購入に絡む軍、政界および軍需ブローカーの癒着の新しい構図を指摘した。
台湾の軍に使われている約6,400台の自動車を間もなく更新することになり、すでに10億台湾ドルの予算が組まれている。表面では外車を買うか、それとも国産車を買うかについて議論されているようだが、水面下ではすでに激しい攻防戦が繰り広げられ始めている。外国企業と癒着している勢力と国内企業に幅をきかせる勢力がいるからである。そして、いままで主導権を牛耳ていた国民党系の政治家が民進党の政治家に取って変わったのだ。
軍需購買に関する不正行為を見てきた軍の関係者は、暴利をむさぼる政治家の心理は同じだ。「青」(国民党)であろうと、「緑」(民進党)であろうと変わらないと冷めた口調で言ったという。陳水扁政権が直面しているのは決して歴史の問題のみではないことだけは確かである。(了)
【主な登場人物の整理】
■ローランド・デュマ:元フランス外相、フランソワ・ミッテラン元フランス大統領側近
■クリスティン・ジュンクール夫人:デュマの元愛人、「共和国の娼婦」と「オペレーション・ブラボー」の著者
■アルフレド・シルパン:エルフ・アキテーヌ社元ナンバー2
■汪傳浦(アンドリュー・ワォン):トムソンと台湾の海軍に太いパイプを持つ兵器ブローカー
■リーリー・リュウ:自称香港在住の女性実業家、北京工作に携わった工作員
■エドモンド・クアン:香港出身のカナダ籍ビジネスマン、台北工作に携わった工作員
■謝聰敏:台北総統府国策顧問、法務部顧問
■尹清楓:フリゲート艦の購入実務を担当する海軍購買室の大佐。1993年10月暗殺されたが、事件の深層が今も解明されていない。
■郭力恒:フリゲート艦の購入実務を担当する海軍購買室の大佐。機密漏洩の罪で服役中。尹清楓暗殺事件に参加した疑いが深かったが、本人はあくまでも否認。
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