執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

英国に留学中の大学院生Aさんが、4月5日付「ガーディアン紙」の米中軍用機接触事故に関する記事の要約をメールしてくれた。Aさんのメールには「私にはある種驚きでしたので、紹介とそれを読んでの感想をお伝えしたいと思います」と書き添えてあった。興味深い記事なのでAさんの要約を転載したい。

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Richard Norton-Taylorという人の署名記事で

「US spy planes fly from Britain too, whether we like it or not; It’s hard to control what the American military do to us」(USのスパイ機がイギリスからも飛んでいる。われわれが好むと好むまいと。アメリカ軍がイギリスでやっていることはコントロールできない)という見出しが付いており、今回の中国軍機との接触事件を起こしたアメリカ軍偵察機が沖縄の米軍基地から飛び立っていたことを枕にして、英国内におけるアメリカ軍基地の法的根拠をめぐる歴史的経緯を扱ったものです。

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<要約>沖縄のアメリカ軍基地は勝者が敗戦国に押しつけたものだが、一方イギリスのそれは、第二次大戦後1948-49年のベルリン封鎖の際の大空輸作戦の際にアメリカ軍が使っていた基地がそのまま当時のイギリス労働党政府との「正式な合意なしに、または公のあるいは議会での何等の論議なしに」アメリカに引き渡されたものである。

イギリスに恒久的にアメリカ軍の爆撃機(つまり米軍基地:筆者注)を置くことはイギリス内閣によるなんらの決定によるのでもないし、この件について議会にも知らせていない、と1949年に労働党外務次官(foreign secretary)アーネスト・ベヴィンは述べている。この法的根拠をもたない合意は「大使の合意」とされ、この合意はイギリス高官によれば「アメリカ・イギリス両政府の見解において、共通防衛の利益においてアメリカ軍の存在は望ましいかぎり継続する」のである。

これらの文書はリンディス・パーシーというベテランの平和運動家が入手し、ガーディアン紙とニューステイトマン紙にもたらされたものであるが、彼女はこれを元に、エシュロン計画で重要な役割を担っている北ヨークシャーのメンフィス・ヒルの基地などの法的無根拠性を訴えている。

戦後、(筆者;日本政府がアメリカ政府に対して認めてきたのと同じように)イギリス政府は、労働党政権も保守党政権も法的には無根拠なアメリカ軍基地を擁護してきた。イギリスは理論上は非公式な拒否権を持る、あるいは基地の使用についてのアメリカからの問い合わせを受ける権利を保持しているという理解ながら、イギリスの歴代首相は実際上はそんな権利が存在しないことを非公式に認めてきた。

したがって、1986年のリビア爆撃や1960年のアメリカ軍偵察機のロシアでの撃墜事件などで、これらがイギリス国内のアメリカ軍基地が関係したものであっても、イギリスはアメリカからの相談を受けることがなかったし、アメリカはなんの制約も受けることなく行動してきた。

しかし、イギリス防衛省の文書は、イギリスの戦略的安全保障が脅かされる可能性は目下のところありそうにないと述べており、アメリカとイギリスが冷戦状況化において共通の防衛意識を持っていた時代は過去のものとなった。今後、イギリスがアメリカの新ミサイル戦略構想に加わることは、イギリスの安全保障にとってプラスにはならないだろう。

ジェフ・フーンという防衛次官(defence secretary)は以下の認識をもっている:

もし新たなアメリカ軍基地を受け入れるならばイギリスはより脅威にさらされることになるだろう;現在中国に囚われている偵察機の基地がある日本のような国は、アメリカがもたらすこれらの問題に気を付ける必要がある;おそらくイギリスもそうすべきだろう。

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この記事が興味深かったのは、日本とイギリスが戦敗国と戦勝国という違いにもかかわらず、アメリカ軍基地についてはある種非常に似通った状況に置かれている、ということを知ったからです。そしてこの記事の筆者はイギリスの状況を書きながら、明らかに日本のことを念頭においています。

もちろん、イギリスと日本の違いはあります。日本の場合は安保という明文化された規定があるという点です(思いやり予算などは別にして)。それに対して、イギリスの場合は法的に無根拠なのであるから、それの変更を要求することは日本よりは容易かもしれません。

しかし、イギリスがアメリカ軍の引き上げを要求すれば、友好関係に基づいてきただけにアメリカとの関係に問題を生じさせるかもしれません。したがって、イギリスも慎重に対応せざるをえないのでしょう。

この記事から日本との関連で学べることは、おそらく日本の安保の問題をアメリカとの関係だけで考えると、事態の認識を誤るということだと思います。アメリカ軍の問題は、沖縄や日本の防衛の問題というだけではなく、日本よりも対等なイギリスのようなアメリカの盟友国家も同種の問題を抱えているのだという、日本とアメリカの関係を相対化して見る目が、最近ますます日本で強くなりつつあるようにみえるナショナリスティックな考え方(それはアメリカだけを世界だと思っているという点で実はアメリカ属国的考え方)に対して重要だと考えます。

Guardianの記事は

http://www.guardian.co.uk/Archive/Article/0,4273,4165397,00.html