usenから始まる究極のネット接続
執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】
有線放送大手の「有線ブロードネットワークス」(usen)が最近、光ファイバーによる毎秒100メガビットの高速インターネット接続サービス「ファイバー・ツー・ザ・ホーム」(FTTH)を開始すると発表した。都内紙の扱いは小さかったが、これこそ日本を本物のインターネットの世界に導く画期的サービスだと小躍りした。
毎秒100メガビットという速度はISDNの1500倍。記憶容量がほぼ500メガビットの「CD」の内容を1分以内で送信できるスピードで、DVDでも10分以内だ。もちろんこれはあくまで「最大」の速度で多くの通信が同時に行われればその分スピードは低下するが、テレビと同様の動画が送れるということはインターネットテレビの時代が到来することに他ならない。
注目は並外れた通信の速さだけではない。使用料金を月額4900円とし、NTTの半分以下に押さえた。また世界で初めて個々の家庭にIPアドレスを割り当てるということだ。少し専門的になるがIPアドレスというのはコンピューターに付けられた住所で、ドメイン名の基になる10数桁の番号。家庭で接続したコンピューターがそのままインターネットのサーバーに転化できるということになる。
ホームページをレンタルサーバーに転送する手間が省けるだけでない。それこそ個々の家を月々4900円であっという間に放送局化にすることすら可能にしている。もちろん24時間接続だから、FTTHの普及が進めばインターネット電話の普及も進み、家庭の固定電話が必要でなくなる日も近い。
NTTは巨大は光ファイバー通信網を持ちながら、銅線によるISDN、ADSLと技術を小出しにしてきたばかりか、昨年から始めた光ファイバーによるインターネットサービスでも10メガビットという低速接続からスタート。ブロードバンドの分野では消費者を愚弄するほどの技術の出し惜しみを繰り返してきた。
有線ブロードネットワークスは、旧社名を「大阪有線」といい、かつては盛り場中心に曲を流したり、電話によるリクエストに応じてきた。1980年代から光ファイバーによる400数十チャンネルの有線放送サービスを全国で展開。90年代以降に建設されたほとんどのマンションにはこの有線放送を導入。繁華街だけでなく住宅地にも光ファイバー網を敷設して、これまでもNTT、電力会社に次ぐ光ファイバー網を保持する隠れた「IT企業」だった。
NTTが技術を小出しにしてきたのはこれまで収益を生み出してきた自前の通信網の陳腐化が怖かったからに他ならない。ほぼ同時に固定電話のiモード版である「Lモード」を開始するなどというなんともちんけな発表をしている間にNTTにとって最も恐ろしい事態が非上場の民間企業によって成し遂げられたのだから痛快である。宇野康秀社長は発表の席上、インターネット電話について「詳細は未定」と慎重な発言をしたがネット電話の本格実用化はそんなに遠い未来のことではなさそうだ。
FTTHのネットワークが全国に張り巡らせられることになれば、絵空事としか受け止められていない「5年後にIT分野で世界の最先端に躍り出る」という森内閣のIT戦略が実現する可能性も出てきた。可能性どころかこの会社の強みは光ファイバー網を20年にわたり国内に張り巡らす経験を積んできた世界で唯一の民間企業だったということだ。通信業界を支配するNTT・郵政族の動向はまだ不透明だが、よもやusenの可能性をつぶすような愚挙にでることはあるまいと信じている。
【読者の声】 本件で少し気になったことがありました。(後述)
全体の主旨はまったくおっしゃるとおりです。NTTがあわてて値下げしたところをみても、 今までの価格は何だったんだ・・・というところです。
政府の言うIT革命に評論家連中は何かとクレームをつけてます。まぁそうしないと食えない からでしょうが、私は政府に向けてのクレームは的はずれなことが多いと思っています。
政府発表の「IT戦略」を一言で理解すると、通信インフラの整備と規制緩和です。政府の役割はこれだけでいいのですから(ホントはもっと重要なことがあるんですが、後述) 今の「IT、IT」の合唱は放っといてどんどんやらせればいいのです。
米国がゴアのNII構想でFTTHを唱えながら日和ったのはコストです。メーターあたりの単価の高い光ファイバーは、無人の砂漠の多い米国の国土ではコストパフォーマンスが悪いんです。従ってXDSLなどのメタル通信技術が代替策として出てきました。国土が狭く人口密度の高い日本は、光ファイバーを敷くのに米国よりずっと有利な環境にあります。最も良い例はシンガポールです、光ファイバーの必要な長さはわずかなものでしょう。あそこなら、いずれ通信費は何をやっても全部タダになるでしょう。
もっと重要なこととは、国家安全保障上の戦略がこの通信分野に全く見えない。暗号化、システム・セキュリティ、通信危機管理対策に具体的政策がないということです。
(ただ光ファイバーは盗聴がもの凄く難しいのです、従ってさっさとFTTHをやるのは有効です)
> ———————————————————————-
> 2001年02月23日配信の「usenから始まる究極のネットワールド」の内容
> でビットとバイトを誤認する間違いがありました。お詫びして訂正します。
> 1バイトは8ビットです。また「100メガビット」というusenの伝送速度は
> 「最大」で多くの通信が同時に殺到すればその分、伝送速度が低下するのは現
> 在の電話線による通信と同様です。以下「差し替え訂正版」を配信します。
> ———————————————————————-
電送速度の低下について通常はこのようになりますが、この会社の発表内容もベストエフォ ートとなってますがかなりの確度で100Mを確保できるようです。技術的に突っ込んで聞 いてみたいので仮申し込みをしてあります。
集合住宅での高速サービスでLAN方式を商品にしているところもありますが、この方式は セキュリティ上極めて危険です。(ケーブルTVも似たところがあり、セキュリティは甘くなり ます)サーバーやハブなど障害要素も多くなってるのでお奨めできません。
また、100Mに対応するためにはISP(プロバイダー)のサーバーエンジンにもの凄い負荷がかかります。大変な設備投資資金が必要になるのでプロバイダーの淘汰が本格化するでしょう。当面はこのサービスに入ると同時にプロバイダーも変えることになるでしょう。
有線ブロードネットワークスは、旧社名を「大阪有線」ですが、 大阪有線の時代にはかなり評判が悪かった。無断で電柱を利用して配線をしていて、監督 官庁の注意にもそっぽを向いていたためかなり厳しい目で見られていました。
数年前、現社長(二代目)になってから、社会的にもまっとうな姿勢になることを経営方針と して打ち出していましたので、現在は大丈夫になったのじゃないでしょうか。(大塚寿昭)