執筆者:文 彬【中国情報局】

昨年3月3日、東京で開かれたモバイルネットワークとデジタル家電に関するセミナーで、フィンランドの携帯電話大手ノキア社の最高経営責任者のヨルマ・オリラ氏は、今後3年間で携帯電話からのウェブ接続数がパソコンからのそれを上回ると予測した上、「未来の主役はパソコンではなく、携帯電話だ」と語った。2003年末までに10億以上の人が携帯電話でウェブにアクセスするだろうという大胆な予測をする人もいる。

一方、報道では、中国の携帯電話の加入者数が昨年の夏に日本を抜いて世界2位になり、昨年末で7千万人に達し、インターネット利用者数も2千万人を突破したという。また、2004年には携帯電話加入者数が2億3千万人、インターネット利用者数は1億2千万人に増加し、アメリカ並みの市場規模になることも多くの専門家の間では確実視されている。

そして、21世紀初頭の20年間でモバイルが最大の産業になるとの予測の中で、今はインターネットと携帯電話はワイヤレスウェブ(Wireless Web)というキーワードで結ばれ、WAP(Wireless Application Protocol)もIT業界のもっとも熱い話題となっている。

ワイヤレスウェブと言えば、日本では1500万人を超える契約者を擁しているNTTドコモ独自のサービス「iモード」をすぐに連想するが、iモードとWAPとではインターネットのウェブサイトへのアクセス方式が違う。ウェブサイトは従来、ハイパーテキスト・マークアップ言語(HTML―Hyper-Text Markup Language)とよばれるウェブページを記述するための言語に基づいて作られている。

iモードには「コンパクトHTML」(cHTML)と呼ばれる記述言語が使われており、「コンパクトHTML」で書かれたウェブサイトの方が見やすいとはいえ、技術的にはHTMLで書かれたすべてのウェブサイトにもアクセスできるようになっている。これに対し、WAP対応の携帯電話はワイヤレス・マークアップ言語 (WML―Wireless Markup Language )で書かれているウェブサイトにしかアクセスできない。そのため、WAPでアクセスできるウェブサイトは世界中にわずか2万4000しかない。iモードがあまりにも強力で名高いため、WAPブームを巻き起こしようとするベンチャーもあるが、よほどの劇的な変化が起こらなければ当分実現が無理であろう。

だが、世界中のほとんどすべての大手通信企業は、携帯電話でデータ転送を行なうための、事実上の業界標準としてWAPを採用している。また、中国の携帯電話市場はほとんどノキア、モトローラ、エリクソン、3COM、シーメンスなど欧米のメーカーによって占領されているため、WAP導入の道しかなかった。

NTTドコモも昨年夏に北京に駐在事務所を設立するなど、活発な活動を通じて参入の切口を模索しているが、まだその影は薄く市場への影響力は未知数のままである。昨年3月28日から全国の6地域に試験的にWAPサービスが導入され、5月17日に携帯電話最大手の中国移動通信公司が正式にWAPサービスを開始した。

2000年末まででWAP利用者は80万人になっただろうと推測されているが、2001年末でこの数字が400万人に膨らむという強気の予言者もいる。だが、インターネット普及の初期段階と同じく問題も少なくない。まず、ワイヤレスウェブの充実したコンテンツを提供するWAPプロバイダーが少ないことが挙げられる。

シナ・ドットコム、ソフ・ドットコムをはじめ、主力20社ほどがWAPサイトを持ち、Eメール、株情報、天気予報、ゲームなどのサービスを提供しているが、内容が貧弱だし、利用者がもっとも関心のあるローカル情報も少ない。

そして、端末からのアクセスがスムーズに行かないことが多いことである。激しい競争のなかで、大手メーカーが消費者の目を惹く新製品を創り出すことにばかり気を配り、業界のスタンダードを無視した結果だ。そのため、利用者はアクセスのための繁雑な設定方法に悩まされ、結局、必要な情報をタイムリーに入手できなくなってしまう。

1996年、米フォンドットコム社はWAPフォーラムを設立し、WAPの普及に注力してきた。今はWAPフォーラムを通じて、500以上にも及ぶ大手電話通信業者とメーカーが手を取り合い、互いのサービスを互換性のあるものにするための協力などで世界的なサポート体制を構築しようとしている。WAPも初期段階のインターネットと同様、競争のなかでも協力がなければ成長しないものだと皆が気付いたからである。

最近、WWW関連の標準化団体であるW3C(World Wide Web Consortium)は、ウェブコンテンツの最新記述言語である「XHTML Bisic」をW3C勧告として公開したという。XHTML Bisicはモバイル機器に搭載するWWWブラウザの仕様と、コンテンツの仕様を決めるが、この言語の利用が普及されると、cHTML仕様のiモード携帯電話とWAP仕様の携帯電話が同一仕様のWWWプラウザを搭載することになり、メーカー間の壁が一気に吹き飛ばされてしまうことになる。実現には時間がかかるだろうが、たいへん明るいニュースである。

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