私学より授業料が高い公立小中学校
執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】
「全国に小学校はいくつあるか」という問いに答えられなくて、調べてみた。1999年5月時点で公立23944校、私立171校。このほか国立が73校あるが圧倒的に公立が多い。コンビニのセブンイレブンジャパンとローソンの店舗数を足し合わせた数字と覚えておくとその規模が分かる。
筆者はこのところ、義務教育不要を論じてきた。富国強兵のために国民の読み書きのレベル向上が国家的な使命課題だった明治時代ならともかく、大学へ行くことすら当たり前の時代だ。憲法が保障する教育を受ける権利だとか義務という観念はもはや時代遅れの感すらある。
学校にいきたくない子供を無理やり行かそうとするから「不登校」などが起きるのであって、義務教育がなければ、そんな表現すら生まれ得ない。そんな思いから義務教育不要論が頭の中でもたげていたのだった。
しかし、統計と予算を調べるうちにとんでもないことが分かった。公立の方が私学よりも授業料が高いという事実が判明したのである。いま私立の小中学校に通わせると年間50万円から80万円程度の学費が必要だが、公立の場合、小学生一人に81万円。中学生には86万円もの経費がかかっているのである。もちろん全額税金による負担だから回りまわってわれわれが負担していることになる。
こういうことを言うと私学助成があるではないか。寄付金もあるではないかといった反論が出てくる。残念ながら私立の小中学校には大学や高校のような助成制度はない。寄付金は1回かぎりの支出でたとえ数十万円の負担があったところで私立対公立の年平均の経費は逆転しない。
考えみれば、公立の学校の経費がゼロというはずはないが、私学よりもお金がかかっているというのはどうにも腑に落ちない。そんな疑問は数字を読み進むうちにまたたくまに氷解した。教員が多いのである。生徒数を教員数で割った教員一人あたりの児童・生徒数はなんと18.4人。この数字はあくまで教員数で、事務職員は入っていない。
確か文部省は35人クラス実現に努力していのだと思う。学校経営には校長や教頭、担任を持たない音楽の先生などもいるが、現実のクラスと統計数値の間の格差は誤差といった概念ではとうてい理解できない疑問が横たわっている。
昨今の少年犯罪の多発で教育の重要性があらためて論議されている。教育の場にもっと優秀な人材を投入するために教員の待遇をアップすべきだという主張も少なくない。だが「ゆとり」「ゆとり」といっている間にどうやら日本の教育の場は「教員にとってのゆとりの場」と化してしまったようだ。
そこでふたたび、義務教育不要論となる。全国の小中学生はほぼ1000万人。うち私学に通うのは30万人。自由意思とは言え、国や地方の負担は3%軽減されている。本来ならば、私学に子供を通わせている世帯は国家のお世話になっていないのだから、いくばくかの還付金や税制上の控除があってもおかしくない。
そんな瑣末な議論ではなく、教育の民営化を図れば、確実に国民負担が半減されるだろうことはたったこれだけの議論だけでも明白だ。国の予算の義務教育国庫負担費は3兆円を超える。これにほぼ同額の地方の財政負担がある。小中学校の児童・生徒数は1982年には1700万人を超えていたのが4割も減っているのに予算はほぼ一貫して増えつづけているのだ。
人間は生まれながらにして競争心があり、向上心があるものなのだ。「ゆとり」を追及するあまり、授業のこま数を減らし、読み書きそろばんすらろくにマスターできない学校。通信簿の5段階評価すら否定しようとする公教育に明日はない。都会の母親たちが子供たちを「お受験」に駆り立てる姿は感心しないが、豊かな時代に義務教育を強要したあげく不登校や学校内暴力がはびこるのだとしたら、ここらで一度「義務」という概念を捨て去るのも悪くはない。
全国の学校数と生徒数(1999年5月1日現在)
国立
公立
私立
計
校数
人数
校数
人数
校数
人数
校数
人数
小学校
73
47,351
23,944
7,385,068
171
67,898
24,188
7,500,317
中学校
78
34,479
10,473
3,972,115
669
237,168
11,220
4,243,762
高 校
17
9,627
4,148
2,953,894
1,316
1,248,305
5,481
4,211,826
年間1人当たり教育費(1999年5月1日現在)
小学校
中学校
全日制高校
学校教育費
62,000
138,000
330,000
学校外活動
200,000
267,000
186,000
給食費
40,000
35,000
–
保護者負担計
302,000
440,000
516,000
公的負担
816,000
868,000
919,000
合 計
1,118,000
1,308,000
1,435,000
地方教育費総額の推移
年度
総 額
学校教育費
社会教育費
教育行政費
実 額
伸び率
実 額
伸び率
実 額
伸び率
実 額
伸び率
1988
1994
1995
1996
1997
1998
百万円
14,793,681
18,556,580
18,954,927
19,099,623
18,995,938
18,812,640
%
3.6
△0.2
2.1
0.8
△0,5
△1.0
百万円
12,584,410
14,859,767
15,129,384
15,244,669
15,214,481
15,123,000
%
85.1
80.1
79.8
79.8
80.1
80.4
百万円
1,529,940
2,710,334
2,802,456
2,806,349
2,712,288
2,618,805
%
10.3
14.6
14.8
14.7
14.3
13.9
百万円
679,330
986,478
1,023,086
1,048,605
1,069,169
1,070,834
%
4.6
5.3
5.4
5.5
5.6
5.7
(注)地方教育費総額とは,公立の幼稚園,小学校,中学校,盲・聾・養護学校,高等学校,専修学校,各種学校及び高等専門学校の各学校の支出経費並びに都道府県,市町村の教育委員会が社会教育及び教育行政のために支出した経費の決算額合計である。
支出項目別の学校教育費
支 出 項 目
1998年度
1997年度
実 額
構成比
対前年度
伸び率
実 額
構成比
対前年度
伸び率
学 校 教 育 費
消費的支出
うち 教員給与
教育活動費
補助活動費
資本的支出
うち 土 地 費
建 築 費
債務償還費
百万円
15,123,000
12,334,609
7,174,742
369,160
282,810
1,698,965
138,717
1,327,636
1,089,427
%
100.0
81.6
47.4
2.4
1.9
11.2
0.9
8.8
7.2
%
△0.6
△0.7
0.8
△1.3
1.1
0.6
△8.1
2.4
△1.2
百万円
15,214,481
12,422,234
7,115,542
373,835
279,834
1,689,411
150,997
1,296,869
1,102,836
%
100.0
81.6
46.8
2.5
1.8
11.1
1.0
8.5
7.2
%
△0.2
1.3
1.9
△1.5
2.5
△10.7
△18.8
△10.4
0.7
(注)「教員給与」には,兼務教員の給与を含む。
1998年03月01日 豊かな北海道に義務教育は似合わない