執筆者:齋藤 祥男【駿河台大学経済学部教授】

●北朝鮮の姿勢変化と対応

北朝鮮の経済失調と食糧危機の一因は、対外経済から隔離して来たため技術水準が落ちた点にあることを、北朝鮮の政策指導者が認識しだしたことである。勿論背景にはソ連時代のようにエネルギーを安価で得られないことや、老朽化した設備での生産性の低下、国際市場を対象とする輸出産品の競争力のなさ、食糧危機は農業技術の不足によることなど、諸種の原因が重複的に混在していることは論じるまでもない。

当然国内的に改革・改善の施策が講じられているが、孤立的存続では経済発展を促進しないことを理解したのであろう。いまや對外関係改善に乗り出した。本年1月にイタリアと国交を回復し、オーストラリアやフィリッピンと改善協議を開始し、タイ、ミャンマーとも接触を始めている。韓国、日本との国交問題もこの流れの中にある。

だからと言って北朝鮮が中国のように、改革開放によって市場経済へ移行すると早合点してはならない。初めて訪朝し、帰国した村山(元)総理は「戦争末期の日本と同じだ」と呟いた。これまでの体制を堅持する姿勢に変わりはない。

多くは死よりもプライドを大切にする教育を受けてきた人々である。国連に承認された独立国として対等に、尊厳を傷つけず、焦らず柔軟に対応し、信頼を醸成しつつ交流に入らなければならない。隣人が気に入らないからといって、日本という国が転居する訳にいかないのだから・・・。食糧援助も経済支援も、受ける側の感情を配慮して考えてみる度量が必要であろう。

●日本が果たすべき役割

北東アジア開発銀行設立については、昨年の北東アジア経済フォーラムで、中国が天津に誘致したいと名乗りを挙げた。前アジア開銀副総裁のカッツ氏の提案では、米国と日本が20%ずつ出資し、残りを他の参加国と参加国以外から調達するとしている。拠出額と融資額を合わせれば、日本が最大の資金供給国となるだろう。

北東アジア経済開発に指導権をとるならば、北東アジア開銀の本店所在地を日本の新潟市に誘致すべきであるとの主張がある 。21世紀へ向けての一大国際貢献プロジェクトとして、沖縄でのサミットにおいて関係諸国に向けて宣言したらよい。

冷戦終結直後のサミットの場で、東欧やロシアの市場経済化への支援として「欧州復興開発銀行」が誕生した。多国籍銀行となる北東アジア開銀の運営は、参加各国から副総裁を出してマネジメントボードを形成し、その決定に基づき総裁が執行することになろう。関係国の利益を調整するためには、総裁は一任期ごとの持ち回りとしたらよい。アジア開発銀行の経験は参考となろう。

5月6日からタイのチェンマイでアジア開発銀行の年次総会が開催された。最大の出資国日本は、これまでに「日本特別基金」と「アジア通貨危機緊急支援資金」をアジア開銀内に設置してきたが、今回新しく100億円を拠出して「貧困削減日本基金」の創設を決め無償援助にあてた。歴代総裁を出してきた日本として、東南アジアの基礎的経済福祉を促進する快挙であるが、北東アジアに対してはこの恩恵は渡らない。

アジア開発銀行は北東アジア開発銀行設立には批判的のようである。未加盟国がアジア開銀に加盟し、出資額を増加させながら必要な配分を受ければよいと指摘している。しかし東南アジアと北東アジアでは当面の取り組むべき目標が異なっている。やはり南北のバランスを考えなければならないのではないか?

●経済グローバリズムと東西文化の調和

昨年12月の世界貿易機関(WTO)閣僚会議がシアトルで開催された際、自由貿易で失業を恐れる労働組合、環境保護団体、人権擁護団体などの「グローバル化反対運動」によって一大混乱が起きた。「グローバル化とはアメリカ化の広がりのことだ。それは様々な機会を与えてくれる」と謳歌する促進派に対して、「全ての力を市場にと説教する考え方は、一種の新しい全体主義だ」との批判もある。

経済におけるグローバル化の特徴は。生産、販売、投資の決定が国境を無視して行われることにある。だからこの言葉には一国の文化、慣習、伝統を呑み込んで、全てを均質化するような響きがある。それは貧富の格差を広げ社会を不安定にする危険を孕んでいる。「文明の衝突」の著者サミュエル・ハンチントンが指摘している問題でもある。

北東アジア・北太平洋経済地帯の構成国は、極東ロシアの一部を除けば、東にアングロサクソン民族を主体とするキリスト教を素地とした米加があり、西に旧社会主義の流れを温存する大中国、北朝鮮があり、韓国を含めて儒教文化の背景に持っている。

前者は成熟した先進国であるが、後者は韓国を除けば発展段階の国々である。地政学的にも文化的にも日本は中間に位置している。経済大国の日本に求められるのは、域内における経済と文化の均衡がとれた架け橋となることではなかろうか。(さいとう・よしお=世界経済評論6月号投稿論文)

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