執筆者:園田 義明【萬晩報通信員】

●ソニーのネット銀行参入
ソニーは3月30日の取締役会でインターネット銀行参入を正式に決定した。資本金は375億円を予定しており、出資構成はソニー株式会社が300億円(80%)、メインバンクであるさくら銀行が60億円(16.0%)、J・P・モルガン15億円(4.0%)となる見込みである。

同日午後、会見した出井伸之社長は、新インターネット銀行で「便利な支払い手段や質の高いバンキングサービスを提供したい」と語り、伊庭保・副社長は、ネット銀行は来年前半の開業を目指し、開業後3年で単年度黒字、5年で累積の黒字化を目標とすることを明らかにした。また、預金量は5年で1兆円を予定している。

同席したさくら銀行の岡田明重頭取は、「(新銀行の)成功する確度は100%」と期待を示した。おそらく現実のものとなろう。

その背景にはモルガングループとソニーとの強力なパートナーシップがある。

●ソニー躍進の背景

今年2月2日にジャパン・ソサエティー主催でソニー創業者、盛田昭夫氏をしのぶ会がニューヨークで開かれ、新生銀行(新生長銀)の取締役に就任したデビッド・ロックフェラー氏、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、そしてソニーの社外取締役であるピーター・ピ-タ-ソンCFR議長などアメリカのエスタブリッシュメントが勢揃いした。

このソニー創業者である盛田氏の人脈は1969年3月のJ・P・モルガン国際委員会役員就任にさかのぼることができる。この「モルガン人脈」こそがソニーの発展を陰で支えたのである。

その後盛田氏はモルガン系企業との連係により新事業参入にも乗り出す。1972年モルガングループの中核IBMの子会社WTC社の取締役就任、1979年プルデンシャル生命保険と折半出資でソニー生命の前身であるソニー・プルデンシャル生命保険設立(取締役会長就任)、1980年パン・アメリカン航空の取締役に就任する。

同時に日米賢人会議、経団連などの財界活動により日米財界人との交流を深めていくのである。モルガングループのGM(自動車トップ)のいすゞ自動車への大口株式所得やテキサス・インストゥルメンツ(TI-IC最大手)の日本進出にさいして仲介役を務めた。

●モルガングループの構成

モルガングループの中核を担うJ・P・モルガンはモルガン・ギャランティー・トラストの持株会社でジョン・ピアポント・モルガンにより1861年に設立された。法人、機関、富裕家族などの顧客サービスに特化した名門ホールセール(純粋卸売)バンクである。

現在その運営は執行役員(Management)、取締役会(Board of Directors)、国際委員会(International Council)、諮問委員会(Directors Advisory Council)の4部門で行っている。

最高意志決定機関である取締役会は18名で内2名が内部取締役で16名が社外取締役で構成されている。

現在のダグラス・ワーナーCEOは自ら総合電機最大手ゼネラル・エレクトリック(GE)と総合エンジニアリング最大手ベクテルの取締役を兼任しておりモルガングループの結束を担っている。

GE、ベクテル以外にもモルガンと歴史的に関係が深いゼロックス、ハネウエル、テネコ、デュポン、フェルプス・ダッヂなどのCEOおよび元CEOが外部取締役として参画している。特に注目すべきは1999年に合併した国際石油資本最大のロックフェラー系エクソン・モービルのリ-・レイモンドCEOが名を列ねている点であろう。

盛田氏が役員を務めた国際委員会には後任として小林陽太郎富士ゼロックス会長が選任されている。会長はジョ-ジ・シュルツ元国務長官が務めシンガポールのリー・クワン・ユーやダイムラー・クライスラーのシュレンプ会長など世界を代表する政財界人が集結している。

注目はロイターとの結合関係である。実質ロイターとJ・P・モルガンは相互に役員を交換しあう緊密な関係にある。

●ロイターに集うモルガン人

ロイターのクリストファー・ホッグ会長がJ・P・モルガンの国際委員会役員に就任している。

またロイターの取締役会にはまもなく退任するJ・P・モルガンのロバート・メンド-サ副会長、モルガン・スタンレ-・インターナショナルのデビッド・ウォーカー会長、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッターのロバート・ボーマン社外取締役、ドイツ・モルガングレンフェルのジョン・クラーベン会長が結集しており国境を超えてグローバルに展開しているモルガングループの政策発信基地としても機能している。

ロイターは国際的なニュース配信ソースとして有名だが、実際には金融情報通信企業である。電子決済取引システムはロイターの「ディーリング2000」とJ・P・モルガンを中核とした「EBS」の寡占状態になっている。実質J・P・モルガンとロイターが連係しながら現在の巨大電子金融市場における絶対的な覇権を実現させたのである。

J・P・モルガンは1933年の銀行・証券業務兼営禁止を規定したグラス・スティーガル法成立によりいったんは商業銀行業務に専念するが、1935年に投資銀行業再開の為にモルガン・スタンレーを分離設立した。このモルガン・スタンレーは1997年にロンドン拠点としてモルガン・スタンレ-・インターナショナルを設立する。1997年にはディーン・ウィッターと合併しモルガン・スタンレー・ディーン・ウィッターとなり現在も名門投資銀行として第一線にある。

J・P・モルガンの前身であるロンドンJ・S・モルガン商会から派生したモルガン・グレンフェルは、1903年にJ・P・モルガンより分社したバンカーズ・トラストとともに現在はドイツ銀行傘下にある。

●モルガン戦略=マイクロソフト分割

2000年2月に世界最大のイギリス携帯電話サービス企業「ボーダフォン・エアタッチ」とドイツ通信・エンジニアリング大手「マンネスマン」の合併が正式に決定した。合併規模は1800億ドルで同1月のAOLとタイムワーナーに次ぐ史上2番目の大形合併となる。

当初敵対的TOBからスタートしたこの合併劇の裏側には国家をも巻き込むモルガングループの世界再編戦略がある。

ボーダフォン・エアタッチはアドバイザーにゴールドマン・サックスとウォーバーグ・ディロン・リードを起用、対するマンネスマンは防衛アドバイザーにモルガン・スタンレー、メリル・リンチ、J・P・モルガン、ドイツ銀行の4社からなる強力な布陣で臨んだ。

ボーダフォン・エアタッチは電子証券取引のパイオニアとして有名なアメリカのディスカウント・ブローカー「チャールズ・シュワブ」と関係が深い。両取締役会にはアラン・サリン/ボーダフォン・エアタッチCEO、チャールズ・シュワブCEO、ドナルド・フィッシャーGAP元CEOの三人の役員を相互に兼任しあっている。

このチャールズ・シュワブの取締役会にはジョージ・シュルツ元国務長官と若手女性政治学者コンドリーツァ・ライス/スタンフォード大学教授が参画しているが、前述のように両人ともJ・P・モルガンの国際委員会の役員であり特にシュルツ氏はその会長を務めるモルガン人脈の頂点に立つ人物である。

この最終的な合併合意の背景には『モバイル・ネット時代』に向けた株主らの期待感と両社にまたがる英米モルガン人脈によるドイツ国家に仕掛けた『「市場主義」対「伝統経営」』の戦争の構図がある。そしてこの戦争の勝因は前哨戦とも言うべき「ドイツ株式会社」の心臓部ドイツ銀行内部へのモルガン・ウィルス(モルガン・グレンフェルとバンカーズ・トラスト)の侵入にある点を見落としてはならない。

『伝統経営』にこだわるドイツの反撃が始まった。ドイツ・シュレーダー政権は今回の合併をきっかけに企業合併・買収の法規制に乗り出した。外国企業による敵対的な買収に対抗するため政府による直接介入も検討している。支持基盤である労働組合などへのパフォーマンス的政策にどこかの国の姿が重なる。

●きたるべきモバイル・ネット時代の力学

ボーダフォン・エアタッチとマンネスマンの合併は『モバイル・ネット時代』に向けた本格的な再編成の第一歩に過ぎない。その後4月になってボーダフォン・エアタッチは米地域通信最大手ベル・アトランティックと米携帯電話事業の合弁会社「ベライゾン・ワイヤレス」を発足させた。

その余波はついにATT、ブリティッシュ・テレコム、マイクロソフト提携に発展した。

ATTの1996年の再分割でファイナンシャル・アドバイザーを務めたのもモルガン・スタンレ-であり、今後旧ATT企業(ATT、ルーセントテクノロジー、NCR)やGE、IBMなどを巻き込んだ再統合も十分に予測される。

また世界が注目するマイクロソフト分割も司法省はアドバイザーとしてニューヨークの投資会社グリーンヒルを指名している。グリーンヒルはモルガン・スタンレ-のロバート(ボブ)・グリーンヒル元社長が設立した情報通信分野を得意とするM&A専門企業である。

先行するNTTグループへの追撃体制の輪郭が見え始めた。そして可憐に演出するのはモルガングループである。

●「モルガンお雪」がとりもつ縁

J・P・モルガンと日本との最初の出会いは1920年の対中国借款であった。J・P・モルガンの歴史に残るリーダーであったトマス・ラモントとの交渉にあたったのは日本銀行総裁であった井上準之助である。

とされているが実際の最初の出会いはジョン・ピアポント・モルガンの甥ジョージ・モルガンと芸者加藤ユキとの恋物語のようだ。

1951年2月に越路吹雪によって上映されたミュージカル『モルガンお雪』は戦後途絶えていた日本への再上陸に少なからずとも影響を与えた。

そして1961年J・P・モルガンによってアメリカで日本最初のADR(アメリカ預託証券)を発行したのがソニーだったのである。

またこの時モルガン側が実際の株式を預ける外国銀行決定に際し、東京銀行に打診したところ「日本のしきたり」に違反するものとして猛烈に抗議したのが三井銀行(現さくら銀行)である。

●『次なる標的』

モルガングループは21世紀に向けてアメリカのリーダーシップを担うべくグローバル・マルチメディア(グローバル・インフォメーション・インフラストラクチャー)の構築に動き始めた。

J・P・モルガンを中核にモルガングループ各社は時には競い合いながらも高度な情報と金融技術を提供しながらM&A&A(買収、合併、提携)を実行している。特にモルガングループの「アメリカ株式会社」の国益を最優先にした企業再編手腕は日本でも見習うべきであろう。

モルガングループはグリーンスパンFRB議長に代表されるように社内外役員をホワイトハウスや主要閣僚、連邦準備制度理事会、世界銀行などの政府機関に送り込み「アメリカ株式会社」の権力中枢に絶対的地位を確立している。

次なる標的は日本である。すでにボーダフォン・エアタッチはJ・フォンへの出資を完了している。そして新生銀行、新生日債銀、ソニー銀行。その前哨戦はすでに完了している。

『モルガンお雪』を彷佛させるスティーブン・スピルバーグ監督の最新映画『メモワール・オブ・ア・ゲイシャ(邦題「さゆり」)』も絶妙なタイミングで公開されそうだ。スピルバーグはクリントン大統領の友人で、民主党への大口献金者としても知られる。

ソニーはDDI(第二電電)、KDD、IDO(日本移動通信)の3社合併による新DDIグループにも出資している。今まさにモルガングループの首脳陣は世界地図をひろげ「アメリカ株式会社」にとって最適な組み合わせを考えているに違いない。

2000 J.P. Morgan & Co. Incorporated 1999 ANNUAL REPORT

Management

http://webrun.jpmorgan.com/ar/management/management.jsp

Board of Directors

http://webrun.jpmorgan.com/ar/management/board.jsp

International Council

http://webrun.jpmorgan.com/ar/management/intl_council.jsp

Directors Advisory Council

http://webrun.jpmorgan.com/ar/management/dac.jsp
Charles Schwab Corporation 1999 ANNUAL REPORT

Board of Directors http://www.aboutschwab.com/annualreport99/cinfo.htm

園田さんは東京在住のサラリーマン。国際戦略コラムでもコラムを執筆中

園田さんにメールは yoshigarden@mx4.ttcn.ne.jp