執筆者:松島 弘【萬晩報通信員】

グラミー賞が発表になった。とにかくサンタナでした。9部門受賞!

ディバディプ・カルロス・サンタナ・・・。この人のことを思い出すと、同時に横尾忠則を思い出す。サンタナのアルバム・ジャケットを担当した横尾忠則氏とサンタナは大の仲良しであるが、むかし横尾氏がサンタナについて書いていた文章が忘れられない。

●とある霊能力者のサンタナ評

『私はとある霊能力者にサンタナのことを占ってもらった。するとこんなとんでもない事を言われた。「この方は大変な方です。この方は仏陀やキリストが歩まれたような道を歩まれます。この方は自分の言うことをみんなにわかってもらおうと努力をしますが、この方の言うことは分かりやすくなく、なかなか分かってもらえません。そしてあなたとは、生涯を通じて無二の親友になります」。さあ、大変だ』

たしかに横尾忠則氏もサンタナもスピリチュアルな人だ。が、微妙に違う。サンタナは、苦労して山道を歩く求道者だ。そこをいくと、横尾忠則氏はあるがままに生きるだけでスピリチュアルなものが寄ってくる特異な人だ。この差は表現のありように現れる。サンタナはもちろん生真面目で不器用だ。できることだけを精一杯やる人だ。

横尾忠則氏は、いろいろ紆余曲折しているように見えても、とにかくその時どき感じることをすなおにやっている人だ。どういう意図で作品が生み出されたか、すぐには分からないことがしばしばあり、評論家は勝手に賛否両論をする。などなど。

しかし2人のあきらかな共通点があるとすれば、不器用なことではないだろうか?不器用さは横尾忠則氏にはいつもプラスに作用してきたように思う。しかしサンタナは、うつろう音楽ビジネスの中にあって、それはマイナスに作用しがちだったように思う。

その不器用なサンタナが9部門受賞だ。しかもアルバム・オブ・ジ・イヤーもソング・オブ・ジ・イヤーも制覇、つまり昨年もっともイケてたアーティストだということだ。

●不器用なサンタナが再びヒット

アルバム「スパーネーチャー」を聴いてみた。確かに、よくコーディネートされたアルバムで、ゲスト・アーティストがいい味を出している。ローリン・ヒルは曲のプロデュースとしても参加し、自らのラップ披露は控えめに他のヴォーカリストを起用して、いかにもプロデューサー的に曲を仕上げている。

ダスト・ブラザーズはいつもながらディープすぎず軽すぎずの、程よいブレイクビーツを聴かせている。ローリン・ヒルと同じくフージーズのワイクリフ・ジーンは燻し銀のヒップホップを提供している。ドン・チェリーの血縁のイーグル・アイ・チェリーもいい歌を聴かせてる。

新しい味のあるアルバムなのだが、全体の印象はやはりサンタナだ!本当に芸風が変わらない。不器用の根太さだ。

一度過去の人となっていたサンタナが、今こんなに再びヒットを飛ばすと、誰が予想しただろうか?時代は波うちのたうち、たまたま彼に2度目の照準が合ったのか?不器用ゆえの勝利?

いや多分アメリカと言う国は、彼のようなサウンドが、ときどきヒットする国なのだろう。アメリカはめまぐるしく変わるようでいて、人々の嗜好品はしぶとく変わらない国なのだ、ホントは。日本は新たな要素の取り込みや消化力が驚異的にダイナミックな国なのよ。ラジオを、まずJ-waveをつけて、そのあとFENに切り替えただけですぐに分かるよ。だってFENが昔の放送みたいに聞こえるんだもん。

(なお、この事実は、同時にアメリカン・ポップスの太い太い力強さを物語ってます)

とりあえず私は、生真面目にやり続けたサンタナが、再び評価されたことに拍手を送りたい。

●キューバ人が持つ強靱な血液として故郷

そして今回のグラミーの、今までと違うところは、今までなら「ラテンといえばサンタナ止まり」という感じだったのが、最近のアメリカでのラテン・ブームを反映して、もっと本格的ラテン・アーティストが受賞したことだ。

今回あきらかに、ラテン・アーティスト3組のライブはひとつの目玉だった。マーク・アンソニー、イブライム・フェレール、リッキー・マーティン。特にキューバのじいちゃん歌手イブライム・フェレールのライブはかっこ良かった。グラミーでこんなに本格的なラテンが見られる日が来るとは思わなかった。

イブライム・フェレールとグロリア・エステファンが同じグラミーの画面に収まるのを見て、私は3年前の「STUDIO VOICE」のキューバ特集を思い出した。それは、たとえばキューバから亡命したミュージシャンのことを、キューバでがんばるミュージシャンは、決して「裏切り者」とは思わない。

もともと「おまえはなぜ、どういうキューバ人か」と問われ続ける彼らにとって、キューバにいる,

いないは重要でなく、ひとつの概念として、あるいは血液として「故郷キューバ」はある。それは文化としての強靭な肉体性と言っていいほどのものである。

というようなことが語られたすばらしい特集号であった。単一民族幻想にしばられてダイナミックな発想ができない日本が見習いたい強さだ。それは、このグラミーでやはり受賞したルベン・ブラデスやティト・プエンテにもあてはまる。

ルベンはパナマ出身のメッセージ色の濃いラテン・シンガーソンガライターであり、ティトは半世紀に渡ってニューヨーク・ラテンの背骨となってきたグラミー常連だ。彼らも、ひとつのラテン社会の表現者として、キューバ勢たちとも尊敬の念を交換しあっているのだ。

こういった民族的ダイナミズムが感じられるようなグラミーであったというのは、やはりスゴかったと言える。サンタナは今後も不器用に作品を発表するだろう。それでよし。

ところで横尾忠則氏は。彼も描き続ける。そして我々は、すこし遅れて、彼はとにかく絵が好きであるのを知るだろう。(くたじゃ報号外より転載=まつしま・ひろし)

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