執筆者:小塚 俊郎【鳥取県】

●都知事にかみついた全国最小県の知事

昨年5月に鳥取県倉吉市で中国5県知事会議が開かれた。ふだんなら何も記事になるようなことはない「セレモニー会議」だが、この日は違った。

「東京都知事が地方交付税をよこせとは乱暴な意見。税が東京に行くと、地方財政システムが破たんする」。

当選したばかりの石原慎太郎都知事を、やはり当選したばかりの片山善博知事が正面から批判したからだ。財政力の弱い、全国最小県(62万人口)の知事が全国一大きな東京との知事にかみついた。

すかさず広島県の藤田知事が「(石原発言は)都市部の都府県は賛成するかもしれないが、地方の県は連合して反対しよう」と片山知事を援護射撃。何やら怪しげな雲行きになったから、このやり取りは全国配信のニュースになった。

●「不景気の今はやってはいけない」

実は(私の勉強不足もあるが)このとき初めて片山知事の口から「外形標準課税」という聞きなれない言葉を耳にした。

「法人の事業税は不況に弱い。せっかく企業誘致しても、県税収入はきわめて不安定なものだ。いっそ事業税と個人所得課税を交換してもらった方がいいかもれない。また外形標準課税も安定的収入ではあるが、導入は好況時でなければいけない。増収策を外国の例に学ぶなど、各県で知恵を絞る時代になってきた」と片山知事。

知事選に出馬するまでは、自治省の固定資産税課長をやっていただけに、地方税制に詳しいところを披露した。

今回の都の外形課税導入にも、片山知事は石原知事にいささか批判的。

「自治体独自の課税導入は地方税法で認められている。それを『けしからん』というのはどうか」と地方の政権は擁護しながらも、「大手銀行だけへの課税は憲法違反であるのは明らか」とし、県としての導入も「不景気の今やるべきではない」と答えた。

●人々の不満をうまく利用する「民心扇動知事」

私も、マスコミの多くが「旧体制に風穴をあける都知事」「慎太郎税ショック」ともてはやす今回の導入には、ある種の「うさんくささ」と不安を感じる。

なぜ石原知事の今回の提案に世論はあげて「快哉」を叫び、高い支持を(各紙調査で7-8割)を寄せたのか-。

それは相手が「大手銀行」だったからこそだ。国民の血税である公的資金を何兆円も受けながら、不良債権処理を口実に税金をほとんど納めない大銀行への庶民の怒りや不満。そこへ石原知事一流の「人心の読み」が働いた。決して人々は外形課税そのものを理解し、支持したわけではない。

「都会でかせいだ金が地方に吸い上げられる」という首都圏住民の潜在的不満を引き出して大いにウケた「東京にも交付税を」論。また空手形に終わった「米軍横田基地返還」の選挙公約。彼は沖縄県の大田前知事のように、住民と痛みを共有し、アメリカに本当に「ノー」と言いに行く政治家ではなく、独特のダンディズムと自己陶酔的な「愛国心」で動いている民心扇動型の知事ではないか、とかねがね私は感じている。概してマスコミは彼には点が甘い。

●便乗でなく、地方が知恵を絞る時代では

しかし、もっと心配なのは石原知事より、彼が突破口をつくると、われもわれもと他の知事や閣僚たちが相乗りするという、いかにも「日本的な反応」の方だ。ついに自民党税調までが「都の導入を踏まえ、景気回復を条件に2001年度にも全国一律の導入を」と言い出した。ところが亀井政調会長は「各自治体が勝手に課税し始めるのはいかん」とまで言っている。つまり地方の課税権は制限すべし、の上に立った導入。これでは「換骨奪胎」もきわまれり、ではないか。

「外形課税みんなで渡れば怖くない」-。あまりに発想が貧困だ。

外形課税はすでに東京税理士会がシミュレーションを行い、「中小法人で資金ショートによる滞納、倒産、深刻な失業問題が発生する」として反対している。安易な導入は、せっかく回復しかけた景気に冷や水を浴びせた97年の消費税増税の二の舞にならないか、という心配がある。

また「全国一律の導入」では、地方は相変わらず中央集権型から抜け出せない。

今回の石原都知事の提案で(悔しいけれど)評価しなければならないのは「地方自治体にも課税権があり、税制を決められる」という自治の原点を思い出させてくれたことだろう。ならばなおさらだ。都道府県によって人口、企業種、産業集積度は大きく異なり、それに合った地方独自の税制を自らの知恵と努力で編み出していく。それこそが地方分権時代に求められる発想ではないか。

●「垂れ流し」では増収しても意味がない

最後にもう一つ。政治家は「金が入る方」より「出る方」にこそ厳しいチェックがいる。

都議会の動きに、大阪府の自民党府議団もさっそく「大阪でも」と手を挙げた。試算では約300億の増収になるらしいが、まるまる入る都と違い、増収分の約8割は交付税からカットされるため、実際は60億円程度。ところが手を挙げた同じ日、赤字3セク「りんくうゲートタワービル」に大阪府が18億円を支出する方針が明らかになった。

関空景気を当て込んで670億円をつぎ込んだ西日本一の超高層ビル。ところが入居率が低迷し、累積赤字は64億円という。せっかくの増収分もあっという間に消える数字だ。

東京都にしても、財政赤字の元凶・臨海副都心開発にメスを入れず、高齢者のシルバーパスなど福祉に大ナタをふるっている。出る方が「垂れ流し」では、少々増収しても意味がないのだ。

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