自衛隊の献身が支える札幌雪祭り
執筆者:佐藤 嘉晃【萬晩報通信員】
札幌雪祭りがきょうから始まった。今年は51回目だから半世紀を過ぎた。華やかさと規模の大きさで世界的にも有名になった祭りだが、裏方として陸上自衛隊の並々ならぬ協力があることは意外と知られていない。筆者自身、地元に住んでいながら、雪像造りについてはほとんど何も知らなかった。勉強方々訪れた自衛隊の真駒内駐屯地で取材したことをお伝えしたい。
雪祭りの始まりは、1950年に地元の中高校生が6つの雪像をメイン会場である大通公園に作った事がきっかけとなった。夏の始まりを告げる、YOSAKOIソーラン祭りがそうであるように、若者達が始めたお祭りだ。
30数年前、小樽に産まれた私がまだ子供だった頃、札幌の雪祭りより小樽の雪祭りの方が盛大であったように記憶している。もともと雪祭りが小樽発祥のイベントであるからだ。しかし現在、札幌の雪祭りの方が圧倒的に有名になっている。おそらく1972年の第11回冬季オリンピックの開催で、世界に知られる冬のイベントとして定着したからだ。
オリンピックを遡る20年前、1953年の第4回札幌雪祭りで、自衛隊の北部方面音楽隊が招待されて演奏を行なった。これが縁となり、翌々年から、自衛隊による本格的な雪像造りが始まった。いまのような大規模な雪像造りは自衛隊の機動力抜きには考えられない。
取材では、実際に雪像造りに携わった方々のお話も聞くこともできた。
我々も含め、末端の隊員の中にも自衛隊が自発的に行なっていると誤解している人もいるようだ。実際には毎年11月上旬に雪祭り実行委員会と自衛隊とが協定書の調印を行い、札幌市長の要請を受けて初めて行われる。
自衛隊にとっても雪祭り参加は、地域貢献や民生協力活動の一環としてされ、実際の雪像造りの作業は、自衛隊員の訓練の一環として位置づけられている。
●設計図から綿密につくられる雪像
まず大雪像を造るために設計図が必要であり、多い時には150枚にも及ぶ。また粘土や発砲スチロールなどを使った縮尺模型を作るが、写真などでは解からない部分を確かめるため、実際に現地へ確認に行く場合もある。11月上旬の調印を終え、実行委員会から作成依頼のあった雪像について技術的検討をする。
たとえば屋根が大きく張り出した雪像の希望があっても、雪だけで造るには無理があるという事で、半分程度にするなどの調整もこの段階で行われる。
12月中には、土の部分を出して基礎作りを行なう。雪像造りの担当となった中隊ごとに、自分達が造る予定地において”径示(けいし)”と呼ばれる測量を行い、鉄パイプを組み、ベニアを貼って足場作りをする。
1月になると、基礎でU字型に囲った枠の中に札幌市内の里塚や滝野などから汚れのないきれいな雪を運び入れる。今年は特に雪が少ないこともあり、恵庭市まで取りに行ったという。雪の輸送はほぼ2週間かかり、その後の雪像造りは朝から遅い時には夜9時ごろまで作業が続くハードワークだ。
雪像作りには、市内の道路などの雪が使われているのかと思っていたが、実は札幌でも人があまり入らない場所から特別に運ばれている。ほんの少しの汚れからでも雪像が融け出すからだ。
また、雪像造りは約1カ月を要する作業で、一日約800人延べ2万5000人が参加する。この時期、自衛隊第11師団のうち約15%程度の人員が雪像作りに割かれることになる。たいへんな数だ。
市民の有志が隊員に混じって、安全と思われる作業をいっしょに行なったり、また、ミス札幌の慰問やOBや協力会などの差入れなどもあり、これには隊員達の頬も緩むそうだ。
●楽しみは小さな笑顔と歓声
雪像を造るために雪を積み上げて行った場合、大雪像では最大1.5メートル沈むことを考慮に入れ、高さと雪の量を考えなければならない。たとえば正方形を作りたい時には、あらかじめ縦に長い長方形を造り、3日ほど雪を寝かせ、落ち着かせる行程の後にちょうどいいようにする。
天候が暖かいと雪が緩み、雨だと融け出す。雪質に気を遣うのは雪の中に異物があるとそこから融け出すためだ。最後に完成した雪像の表面を守るため”塗雪”と呼ぶコーティング施す。水を含ませた雪をコテで塗りつけ、表面を凍らせる事である。
いざ完成してしまえば、あまりすることもないのかと思っていたが、たとえば子供達に人気の滑り台など、滑走面に貼りつけた氷をはスタート部分ではお尻の熱で融けるし、途中やゴール部分では靴で削れたり割れたりの補修作業があったりと、維持する作業もなかなか大変である。
第二会場の真駒内駐屯地では、雪祭り終了と同時に雪像は取り壊される。雪像が融けて崩れると危険であるためである。1カ月もかけてコツコツと造り上げた労作が機械で一気に壊されるには寂しいが、また来年がある。
作業に当たった自衛隊員の雪像に対する思い入れは格別だ。多くの隊員は作業の様子や完成した雪像を写真に撮って残している。自衛隊員にとって普段の演習や訓練では得られない雪像造りという”形”が出来上がる喜びと、それを待ち望んでくれている多くの笑顔を見ることが、彼らの大きなやりがいになっている。開幕の7日以前に、今年は4日に”福祉開放”をした。擁護施設を中心とした子供たちの喜ぶ姿を見ることも大きな励みになった。
年々規模も拡大し、様々な人が関わっている雪祭りだが、小さな笑顔と歓声を楽しみに雪像造りに勤しんでいる隊員達のご苦労に感謝したい気持ちになった。
なお、今回お話を伺った自衛官が教えてくれたサイトで、メイン会場となっている大通公園に造られている雪像製作の様子が、開始当初からの写真をふんだんに取り入れた日記風になっておりますので、こちらの方もぜひどうぞ。“汗と涙の雪像日誌”です。http://www.stv.ne.jp/event/ssf51/dialy/index.html(さとう・よしあき)