2000年01月26日(水)Conakry発 齊藤 清通信員

 ギニアでは大粒マンゴーが出回り始めました。10日ほど前に「マンゴーの雨」が降り、この日あたりを境にして、市場や露天の山積みのマンゴーが、市民の舌を楽しませてくれるようになりました。とっても甘いですよ、おいしいですよ。この季節、人々は飢えることを忘れます。

 ◆豊かな国々の運命
 西アフリカのギニア湾に沿って南下する形で、ギニア、シエラレオーネ、リベリア、コートジボワールと、4つの国が寄り添って並んでいます。どの国も水と緑が豊かで、自然環境には充分に恵まれた国々です。

 そしてある時期には、それぞれの国が、アメリカ大陸への労働者を奴隷として送り出し、その後には、植民地という形で西欧に隷属し、海を越えた国々を豊かにするための礎となってきました。第二次世界大戦の後しばらくして、形としては独立国家となったものの、現在に至るまで旧宗主国との腐れ縁を断ち切ることはなく、お互いに主従関係を確認し合いながら生き続けているのも、この4つの国に共通した特徴です。

 これに加えて、これらの国々が相互に絡み合う話題のひとつとして、今回はダイヤモンドをとりあげてみます。――そうです、光り輝く貴重な天然の石、あのダイヤモンドです。

 ◆輝く石の旅路は
 あなたの手元へ憧れのダイヤモンドが届くまでの道筋は、けっして単純ではなさそうです。ロンドン、アントワープ、テルアビブ、ボンベイ、ニューヨークあたりの原石買い取り業者から加工業者、そして、その他もろもろの関連業者の海を渡り、荒れる旅路を乗り越えて、そのようにしてやっと、あなたの町の宝飾店にまばゆいばかりに輝くダイヤモンドが到着する、というのが常識的な理解ではあるのでしょうが、それでは、その原石はどこで採れたものか、あなたはご存知ですか。

 南アフリカのとある町で掘り出されたきれいな石が、たちまちのうちに世界の人々の羨望の対象となり、貴重で高価な品物として認知された、という神話が先進諸国に浸透したのは、比較的最近のことです。そしてその生産地は、ロンドンの有力業者が公式に発表している範囲だけでも、ボツワナ、南アフリカ、ナミビア、ロシア、カナダ、オーストラリアと、世界の各地にまたがっています。

 そして、それらの土地で産出されたダイヤモンド原石は、ロンドンのシンジケートを通して世界の市場へ供給され、「ロンドン」が市場を全面的にコントロールしている、と一般的には信じられています(いるはずです)。これも、神話の領域にかなり踏み込んでしまっているようでして、正確には、信じさせようとしている、そして支配したいと願っている、というべきなのですが、それにしてもロンドンの力が並外れたものであることは否定できません。

 このささやかなレポートは、その全体像を白日のもとに、などという不届きな野心を持っているわけではありません。以上を布石として盤の上に置いたまま、このギニアから肉眼で透けて見える範囲のごく狭い世界を、あなたにだけそっとお伝えする、ただそれだけです。

 ◆シエラレオーネの内戦
 ギニアの隣国、シエラレオーネ共和国は、1992年4月のクーデター以来、血を血で洗う内戦が7年間にわたって続けられました。この間、更なるクーデターやら、現職大統領のギニアへの亡命・帰還等、めまぐるしい動きが繰り広げられます。

 また、1997年10月の和平合意を受けて、ECOMOG軍(西アフリカ経済共同体平和監視軍)が動いたものの事態は好転せず、戦闘は泥沼と化するばかりでした。98年2月になってから、ECOMOG軍がその主体となっているナイジェリア軍を増強して、本気になって攻勢をかけた結果、首都フリータウンの奪回に成功し、ギニアへ亡命中の大統領が本国への帰還を果たしたものの、その時点で、国内は依然として叛乱勢力の手中にありました。内陸部での戦闘は継続。

 その後、ECOMOG軍と近隣諸国政府の支援を受けながら、叛乱勢力RUFのリーダーを副大統領格としてとり込み、同時に複数のメンバーを閣僚として迎えることで、99年7月、改めて和平合意。

 ◆無尽蔵な軍資金
 ところが、叛乱軍の実質的な現地指揮官――殺した人間の血を吸う「モスキート」とあだ名される男が武装解除を受け入れず、和平合意後も、戦闘員と共に国内各地で散発的なゲリラ戦をしかけて、中央政府とECOMOG軍を脅かせ続けました。また非協力的な住民に対しては、コソボ紛争以上ともいわれる残虐な仕打ちをしています。

 ともあれ、ここで気になるのが叛乱軍の資金と装備の問題でしょう。これほど長期間の戦闘を続けるためには、それなりのモノがたっぷり必要になることは確かです。そうなのです、彼らには、潤沢な資金と必要にして充分な武器が、常に供給される環境があったのです。

 その源泉は、実はダイヤモンドでした。ギニア、シエラレオーネ、リベリアの各国は、それぞれに品質の良いダイヤモンドを産出しています。叛乱勢力が根城としているシエラレオーネ東部地方は、特に産出量が多いといわれる地域で、その地域を支配している限り、資金調達の苦労はありません。

 ◆戦火に油を注ぐダイヤモンド
 手元に、カナダのPACというONG組織が流したというレポートを種にして、国連のアフリカ地域情報ネットワークIRINが、1月12日に配信したシエラレオーネのダイヤモンドに関する記事があります。イギリスのBBCも、同じ日にこのレポートをネタにした記事を流しています。また、デビアス・カナダ社は、翌日付けでこのレポートについてのコメントを出しました。

 この記事によれば、レポートの主張は、「シエラレオーネ産のダイヤモンド原石が、闇のルートを通して大量にベルギーのアントワープに流れている。この資金が戦乱を拡大させている。国連の平和維持軍を産出地に配置してこの闇ルートを押さえさせると同時に、首都フリータウンに『正規のダイヤ買い取りエージェント』を設置することを提言する」というものです。

 BBCも、「ロンドンとアントワープが、叛乱勢力の違法な取引によるダイヤモンドを、目をつぶって買い取っていることが戦火に油を注いでいる」と非難しているようでした。

 ◆ダイヤモンドの流れの記録
 このレポートは、世界の原石生産量の半分を買い入れているといわれるベルギーのアントワープで、HRDという組織が集計しているダイヤモンド原石の各国ごとの買い入れ実績を、問題としている国の分について次のように示しています。(ただし、大粒の原石は集計から漏れている可能性が大)
 1.リベリアから年平均600万カラット以上。(1994-98の間に、合計3,100万カラット以上)
 2.コートジボワールから毎年150万カラット以上。(1995-97の間)
 3.シエラレオーネから77万カラット。(1998のみ)
 また、リベリア自身の生産能力は、年間15万カラット程度と見積もっていること、コートジボワールでは、1980年代半ば以降の公式の生産は停止されていることを付け加えていて、要は、これらの原石は、シエラレオーネ原産のものが「違法なルート」で輸出されたものであるとアピールしています。

 ◆狸の皮算用
 試みに、以上3カ国からの輸出量の合計827万カラットに、カラットあたりの想定単価350ドルをかけてみると、その金額はおよそ3,000億円になります。また、なぜかこのレポートが記述を避けているギニア経由アントワープ、更にはロンドンへの流れも現実にはあるわけですから、この数字はさらに膨らみます。

ちなみに、ギニアの1999年度の国家予算の歳入期待額はおよそ500億円でした(実績は大きく下回るはず。予算総額は900億円)。大雑把に比較すれば、シエラレオーネはギニアの半分程度の規模の国家といえないこともありませんので、単品の輸出額が3,000億円を超えるということであれば、これはただ事ではありません。輸出税を10%も徴収できたとすれば、あとは左団扇です。

また、輸入する側にしても、これを加工して付加価値をつければ、あなたもご存知のように、けっして安くはないダイヤモンド宝飾品ができあがります。その総額は、口に出したくもないくらいの大きな数字になるはずです。

この「違法」な、しかし魅惑的な石の流れを、「正規」の方向へと変えてみたい、と考える人が出てくるのもそれは自然な流れでしょう。一理も二理もあることです。

 ◆国連軍の広報戦略
 そのような背景のなかで、ECOMOG軍は手ぬるい――彼らまかせでは真の和平は永遠に望めまい、との旧宗主国・イギリスの声もあって、国連はシエラレオーネへの平和維持軍の派遣を急ぎます。

さっそく、実に正直な、しかし効果的な宣伝が始まりました。昨年の12月2日には、BBCが「国連平和維持軍は、インドのグルカ兵を東部のダイヤモンドゾーンに配置する予定」「グルカ兵は、カシミール紛争で活躍した世界最強の兵士であり、同じ部隊がまもなく到着」等々と放送を開始。これを基本の材料として、叛乱勢力の現地指揮官「モスキート」を名指しし、脅す内容の原稿が連日アフリカ向けラジオ放送で流されました。

ナイジェリア軍相手であれば、その手のうちは読めているものの、見たこともないアジアの、しかも何か恐ろしそうな感じのイギリスの傭兵もどきがやってきたのでは、さすがの「モスキート」としても勝ち目はないとみたのか、本拠地を完璧に破壊した後、家族を連れて、12月16日リベリアの首都モンロビアへ飛びました。

置き土産として、叛乱勢力RUFのリーダー・同士であり、現在は副大統領格のポストにぬくぬくとしている(実際は針のむしろ、なのですが)サンコーに向けて、刺客を放っていきました。もっとも、これは「モスキート」の意に反して不発に終わりましたけれど…。

 ◆三者会談
 リベリアのチャールズ・テイラー大統領は、シエラレオーネの叛乱勢力RUFに対してすこぶる好意的です。それは、これまでにリベリア経由で輸出されたダイヤモンドの量をご覧いただけば、すぐに納得がいくはずです。そのうえ、この叛乱勢力の武器は、すべてリベリアを通して供給されていたわけですから、これ以上にありがたいお客はあり得ません。

一方、朋友「モスキート」に刺客を放たれたRUFリーダーのサンコーは、12月14日にはモンロビアに飛んで、盟友のチャールズテイラー大統領に、「モスキート」の誤解を解くよう仲介を頼みました。その後、三者で数日間にわたる話し合いを重ねたと、国連の情報機関は伝えています。

リベリアの利益のために、隣国のダイヤモンドゾーンを自動小銃で完全支配していたRUFのためであれば、国際世論を敵に廻しても一肌脱ぐ――これが西アフリカの侠客チャールズ・テイラーの心意気、というところでしょうか。

 ◆違法ルートをブロックせよ
 このようにして、ロンドンの「正規ルート」から見れば、まさに人類の敵とおぼしいアウトサイダーグループが、肩の力を抜いた会話をしている間にも、国連平和維持軍は着々と兵員の配備を進め、1月11日には4,500人以上が持ち場についたと発表しています。

顔見世前の宣伝がかなり派手だった「世界最強」のグルカ兵は、インドからの派遣兵としてごく少数が現地入りし、実際には首都での後方支援に廻されて、医療、輸送、補給等の業務を担当しています。

「違法」なルートを通ったダイヤモンドが、アントワープで換金されて戦禍が拡大するのを防ぐためという理由で、すでに現地指揮官が逃げ出してしまったダイヤモンドゾーンへ、さらに5,000人規模の兵員増強が要請されているともいわれます。

これからは「モスキート」に代わって、国連平和維持軍がその自動小銃を外に向け、「違法」なルートをブロックして、この地で産出されたダイヤモンド原石がわき道にそれることなく、無事ロンドンに向かうよう骨を折らなければなりません。

 ◆ダイヤモンドには自動小銃がよく似合う
 戦乱がほぼ収束したこの時期になって、「シエラレオーネからのダイヤの密輸が戦火を煽る、ダイヤモンドは正規のルートでロンドンへ」という、ずいぶんと季節はずれの歌を、かなり胡散臭いONG・PAC、国連の広報機関、ロンドンの国営放送BBC、そしてそれらの推薦を受けた形の業界の雄デビアス社が、ぴたりと声をそろえて合唱しているという図――これはすばらしく理解しやすい一幅の旧植民地図会の再現、と見えてしまうのは、マラリア熱に浮かされた私めの妄想なのでしょうか。
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