執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

3メートル足らずの「THINK」という小さな電気自動車がノルウエーでこの12月発進した。この車両は1回の充電で85キロしか走行できず、最高速度も90キロでしかない。

価格は日本円で190万円(139,000NOK)で、このほかにバッテリー・パッケージとして、月額1万5000円(1095NOK)の5年間のリース費が加わるから価格も維持費も決して安くない。

しかし通勤や買い物など日常の走行には短距離の性能があればいいと割り切ったところに製造会社の「THINK Nordic AS」のコンセプトがある。3年間の生産計画は5000台。来年からはスウェーデン、デンマーク、フィンランドへの輸出も始める。環境にうるさい北欧の人々にこの新しいコンセプトが受け入れられるかどうか注目したい。

●コミューターカーとしての実験

THINKはプラスチックのボディーをアルミのフレームで補強したものだが、メーカーによると欧州の安全基準をクリアしているということである。電池はニッケル・カドニウム・バッテリーで耐用年数は10年。充電は家庭だけでなく市内のスタンドや駐車場で簡単にできる。

THINKのもう一つの目玉は「部品数の少なさ」である。「廃車の際にもリサイクルを容易にしている」といかにも北欧らしい主張をコンセプトの折り込んでいある。

THINKはJan Otto Ringdal氏が1990年に PIVCO Industries Ltd(Personal Independent Vehicle Company) を設立したことから始まった。80年代後半の環境問題の高まりを受けてただちにプロジェクトがスタートした。93年にはプロトタイプ2号を完成し、94年のレレハンメルオリンピックで初めて公道を走る電気自動車としてテストされた。

95年のスカンジナビア電気自動車ラリーではプロトタイプ3号が優勝し、アメリカのサンフランシスコで1995年から98年にかけて行われたBART(Bay Area Station Car Programme)計画にコミューター・カーとして44台が送り込まれた。

BART計画は都市における「Park and Ride」の実験である。公的交通機関と駅前にプールした電気自動車をリンクさせ、最寄りの駅まで電気自動車で乗り付け、降りた駅でまた違う電気自動車で会社まで通うこのプロジェクトにThinkもまた参加していた。

しかし、THINKの生産車が完成し、オスロ郊外のオウルスコグの工場での生産が決まった時点で財政的に破たんし、今年、フォードの資本参加をあおいだばかりである。フォードのナッサー社長は買収に当たって「電気自動車が採算にのるかどうかは発想の転換にある。PIVCOによるプラスチックボディー製の電気自動車のユニークな開発はフォードの電気自動車開発に新たな発想をもたらす」と絶賛した。

●レンタカー会社ハーツとの提携

おもしろいのはレンタカーの世界的チェーンであるハーツ社がこのTHINKを大々的の扱うことを宣言したことである。普通のレンタカーとしてはもちろん、リース車としても扱うことになった。「電話一本でご自宅にも会社にもTHINKをお届けします」というのがうたい文句である。そして点検やサービスの間は必ず代替車が用意されるため「車がない時がない」そうだ。

また週末や休暇の家族旅行の時、THINKでは物足りないと考えたときはハーツが特別価格で大型のファミリーカーを用意してくれるサービスも加味されているそうだ。

日本でもコミューターカー・システムの導入に向けた実験は大手自動車メーカー各社が取り組んでいるが、ノルウエーの実験ではレンタカー会社と連携すれば、新たなインフラを作らずにコンセプトを導入できるのだということを示している。

車を持つ時代から車を使う時代が北欧から始まるのだと思う。

THINK Nordic AS http://www.think.no/mainframe.htm

まぐまぐで配信している「ノルウェーニュース」12月1日発行「Vol 5」に「ノルウェーで初の国産車EV THINK が発進」という興味深いコラムを参考にさせてもらった。感謝します。

●ノルウエー通信 http://www.mag2.com/m/0000017771.htm

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