執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

官民多くのエコノミストはそろって日本経済が底を打ったと述べている。経済企画庁の景気判断も日銀の短観もまた同じような見通しである。われわれ国民は小渕政権という護送船団に安心して身をまかせられるのか。
●経済が底を打っても必要な18兆円の経済対策

政府は「経済新生対策」として18兆円もの新たな経済対策を決めた。昨年秋の24兆円に次ぐ史上最大規模である。このために新たに7兆5000億円の国債を発行する。今年度の国債発行額は38兆6000億円に達する。
18兆円というのは日本のGDPの3.6%にあたる。みんなが悪くないとする景気判断があるにもかかわらず、そんな巨額の経済対策が必要なのだとすれば、景気が底を打ったというのはうそである。
経済企画庁は今回の経済対策について「GDPを1.6%押し上げる」と発表し、同時に1999年度の成長見通しを当初の見通しの0.5%から0.6%に修正した。ということは経済対策がなければ、マイナス1%だったのである。
本来3.6%分のお金が出動したら、単純計算でも4%以上の経済成長率を達成できるはずだ。そうでないのなら、政府の発表数字のどこかにごまかしがある。本当は経済は底など打っていないのだろう。
数字は不得意だという人もあろう。筆者も不得意だ。だが、政府の言っていることと、やっていることのあまりにも大きな違いに戸惑いを感じ始め、萬晩報に数字を並べ始めた。するとどうだろう。もはや不得意だとかいって、この国の財政を放置しておくことはできないはずだ。
昨年春の経済対策は「昨夜の10兆円が朝方12兆円、夕方に16兆円となった」

昨年秋の経済対策は「20兆円といわれていた総額が1日で24兆円に決まった」

今回の経済対策は「10兆円程度とされていたが最後は18兆円に積み上がった」
日本の経済は58兆円の追加対策を行ってまだ回復基調に乗せられない。無駄があるのかごまかしがあるのかどちらかである。萬晩報は昨年11月17日号で以下のような指摘をした。今年も同じ文面を載せたい。
●通年の3倍の公共事業は消化不可能

そもそも「2.3%の浮上効果」というのもおかしな話である。事業規模24兆円がすべて使われたら、500兆円弱という日本のGDPの規模から見て単純計算で少なくとも5%程度の押し上げ効果があっておかしくない。しかも4月24日の第一次景気対策発表時には「16兆円で2%のGDP押し上げ効果がある」と胸を張っていたのだ。相乗効果を加味すれば、2桁台の試算が出てくるのが常識だ。
萬晩報の見通しではこんな規模の事業を現在の日本で年度内にこなすことなど不可能だ。当初予算の公共事業費は9兆円弱で、一次の追加分が7兆7000億円、二次分8兆1000億円であるから、年間の公共事業費は通年の3倍となる計算である。いずれ、来年度予算とのからみでどこかに雲散してしまう可能性があるのだ。
消化する唯一の方法は、前払いでゼネコンに建設資金をつぎ込んでしまうことである。次に起こるだろうことは競争原理を逸脱した入札がそこかしこで出現するかもしれないという懸念である。消化できない予算を無理に消化しようとすれば、以上の二つの方法しかないからである。
問題はいくつもある。ゼネコンへ前払いした場合、ただちに土木労働者に賃金が支払われず、当面の資金難に陥っているゼネコンのバランスシート修復の役に立つだけに終わりはしないかという疑念さえある。そうなったら景気回復どころではなくなる。単なる国によるゼネコン経営救済にしかならない。

●債務の「たらい回し」策に「新生」をかぶせた政策

1年前の論評が数字を少し変えるだけで通用するのだから、この国は進歩がない。実は昨年秋の景気対策を終わってから、小渕内閣は中小企業救済策として、中小企業への特別保証枠20兆円を加えている。
この保証枠は無担保で5000万円まで借金できるシステムである。中小企業主が遊興費や株式購入に充てたという話も出ているが、ほとんどはこれまで借りていた銀行融資を解約して政府保証枠に付け換わっただけのようである。今回、この保証枠に10兆円を追加した。
もともと貸し渋り対策だったから、中小企業の新たな投資に費やされる性格のものではないとしても、中小企業向けの危ない融資の「たらい回し」を「新生」と名付けた経済対策に盛り込んだのだから、度し難い。
昨夜、コンピューター中堅企業の社長らと懇談したときに、だれかが言い出した。
「商工ローンで連帯保証人になって苦労している人がたくさんいる。企業経営でお金を借りるということはたいへんなんだ。この際、小渕総理に国債発行の連帯保証人になってもらうしかない」