執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

10月09日付け「続・100年前のアメリカを想起させる巨大企業合同」にアメリカ在住の大辻一晃さんと水田幸直さんと2人から長いコメントをいただいた。興銀、第一勧銀、富士銀の3行合併の弊害を議論している間に住友銀-さくら銀、東海銀-あさひ銀の統合も発表され、日本の金融業界は再編の嵐に巻き込まれた。
共同通信のワシントン支局の経済担当の大辻さんは「保護によりかかった日本の金融界で、独占が先に進行するのは弊害が大きすぎる」のは分かっていても、いまの日本には「アメリカの後追い以外に選択肢はない」という危機感から興銀、第一勧銀、富士銀の3行合併はやむを得ないという立場を強調した。
一方、日本とアメリカの金融機関に勤務の経験があり、現在オハイオの日系企業の経理を担当している水田さんからは、今回の日本の銀行が直面している危機に際して、日本の政府、銀行経営者が取っているやり方は「以前の護送船団方式の延長線上にあるとしか思えない」とし、「グローバルな経済体制の現況下自由競争市場がある業界のみが、国際的な競争政策を語る資格があるとの認識は強調しても強調しきれないほど重要なことだ」と喝破しています。
萬晩報は「ここ20年間の日本では、世界的な構造改革の波に乗り遅れて生きた。内部の矛盾にメスを入れる前に次の改革の波が押し寄せ、解決すべき課題を次々と累積している結果が、まさに今回の金融破たんに凝縮している」と考えている。
資本金の何倍もの公的資金を導入したばかりの銀行同士の合併はどうみても巨大な国営銀行への道としか映らない。住友銀とさくら銀との合併も同様だ。世界の企業がますます国家という枠組みを離れて離陸している最中に、国家という命綱に引っ張られる日本の巨大銀行が国家の枠組みを超えられるとは考えられない。
きょうは大辻、水田両氏のコメントを掲載して読者のみなさんに日本という国家の行く末を考えてもらいたいと思う。(伴 武澄)

●アメリカの後追い以外に選択肢はない(ワシントンDC-大辻一晃 )
企業統合をめぐる論争、興味深く拝読致しました。競争政策が崩壊しているのは、日本よりアメリカの方が先駆的です。規制緩和で弱肉強食、資本集中が進み、米司法省、米連邦取引委員会(FTC)は競争政策の再構築を模索しています。マイクロソフトやアメリカン航空を提訴したのはその一環ですが、まだ先は見えません。
規制緩和で競争を促すと、資本集中が起きるのは当然の帰結と思います。貴殿の問題意識は、なお規制=保護によりかかった日本の金融界で、独占が先に進行するのは弊害が大きすぎる、ということかと受け止めました。確かに、そういう面はあると思います。
今回の一連の銀行統合の結果、銀行以外の企業も再編が進むと思われます。結果として言えるのは、日本経済の国際競争力が高まる、というか、こうしないと生き残れない、ということです。アメリカは一足先に企業再編の波が押し寄せ、日本も手を打たないと完全にのみ込まれるのが必至でしたが、そうした事態は回避されるであろうと推測します。
メーンバンク制度は以前と比べると弱っているのは間違いないことですし、独占の善悪は別にすれば、今回の日本の動きは、日本経済の生き残りという意味では歓迎すべきことかと思います。
もちろん、独占、競争政策の問題はあり、私も、アメリカのような強者への蓄積ばかりが進む経済を決して容認しているわけではありません。この点でアメリカでもまだ取り組みは緒についたばかりです。ただ、日本は波に乗り遅れてしまうより、とりあえずついていって、競争政策面もまた、アメリカの動きを後追いする、という以外に選択肢はないような気がします。
もう一点、日本が外国にシェアを大幅に明け渡してる分野といえば、農業と石油です。戦略二分野でこれだけ外国に頼ってるのだから、工業品ぐらい日本製が強くないと、逆に国家的な安全保障の問題として、危ういのではないでしょうか。
かつて、日本市場は規制が外国企業の参入を阻んでいましたが、先日、バンクーバーの日米自動車協議を取材し、時代は変わった、との認識を持ちました。もはや、ビッグスリーは日本でシェアをとろうなどと考えていません。日本が自動車分野の規制を緩和し、シェアが増したのはベンツであり、BMWでした。
アメリカでも、乗用車は日本、ドイツ車の人気が断然高く、アメ車は魅力がないのです。むしろ、ビッグスリーはRVなどアメリカならではの需要がある分野で強みを発揮しているのです。アメリカで売れない車が日本で売れるはずがないですし、ビッグスリーも本気で右ハンドルの車など作る気はありません。
むしろ、彼らが考えているのは、アングロサクソン的な「狩猟」「金融的手法」です。モノ作りが得意な日本人に工場はまかせ、上前をはねるのが一番。そのために、日本の会社を買収するのが手っ取り早い、という理屈です。実際、マツダ、いすゞはもはやビッグスリーの「一部」ですし、日産も「外資系」で、「外国企業の持株比率」でみた外国車のシェアは20%を優に超しています。つまり、日本の自動車市場は「開放」されたのです。
だから、ビッグスリーは自動車協議に関心がないのです。でも、日本の優秀な工場労働者に駆逐されるアメリカの労働者は反感を持っていて、労働組合に依存するクリントンの民主党がまだ自動車分野の「日本たたき」に固執し、自動車協議を続けている。それだけのことです。
幸い、日本人はモノ作りと顧客サービスに圧倒的な国際競争力を持っており、だから、日本のメーカーを買ったり、日本に進出する企業が欧米にたくさんあるのだと思います。
外国製シェアで市場開放度を測る手法は、以前は数値目標が好きだったアメリカ政府も最近は姿勢を転換しているぐらいで、グローバル時代にはやや難があるのではないでしょうか。(大辻さんへメールはotsujika@kyodonews.or.jp)

●自由競争がある業界のみにある国際的な競争政策を語る資格 (水田幸直-オハイオ)
萬晩報を興味深く読ませていただいております。100年前のアメリカ企業を想起させる巨大企業合併の記事を読んでの私なりの感想を述べさせて頂きます。
独占禁止法とのからみでの牧野さんのご意見もうなずけるところはありますが、永年アメリカで生活した体験(1個人の限られた視野のもとでの感覚的意見ですので間違っていることも多々あると思いますが。)から判断するに萬晩報のコラム補足の方が、実態に近いと考えます。
私は、1967年に東京で三菱銀行に就職し、ニューヨーク支店、シカゴ支店勤務を含めて14年間在籍しました。その後、アメリカから日本へ戻った時の日本の学校の記憶重視型、均一嗜好型教育に疑問を感じ、子どもにどこに住んでも生き延びる能力と逞しさを持って貰う為に、三菱銀行を退職し、米銀で6年、プライスウオーター会計事務所で8年勤務し、今は、ミシガン州の日系製造業で財務担当をしています。
米国留学を含めて合計29年近くアメリカに住んで見て、日本とアメリカとの違いのなかで一番大きいと思うものは、自由と言う言葉に対する解釈・理解の差ではないかと思います。
自由と責任が、実生活のなかで常に問われ、現実に個人の自由な判断によって齎された結果は個人が責任を持つことが、日常的に実践されている社会と、何らかの規制の範囲内での自由は保たれているが、その結果に対する責任は規制を施行した相手に転嫁し、自分ではとらなくても良いことが多分にある社会では、この自由と言う言葉の意味が異なると思います。
特に銀行業界については、両国の銀行での経験からすると顧客との力関係は全く異なっています。日本の大手銀行は、その資金供給力を利用して、顧客の帳簿の細かいものについても吟味できる力を持っていますし、表面上の財務内容とは異なる実質の財務内容をつかむ能力もあります。
また、日本の会計制度が、投資家には内容不明な数字を記載することを可能にしています。時価価格を義務ずけているアメリカの会計制度と原価法を取ろうとしている日本では、公表数字の信頼性は言わずもがなと言う所です。アメリカで日本の銀行のように、顧客の細かい財務資料を吟味できるのは会計事務所です。
しかしながら、会計事務所は会計原則に乗っ取った会計監査をする必要があるし、顧客がつぶれた場合には、投資家から訴えられることが多々あります。また、資金供給能力もない訳で、会計事務所が日本の銀行ほどの力はありません。
アメリカでも地方銀行、貯蓄銀行が経営危機に直面し、公的資金が導入されましたが、その時のアメリカ政府のやり方はつぶすものはどんどん潰し、公的資金を速やかに回収する方向で進めて、最終的な公的資金の導入を最低減に止めようと動きました。この結果、アメリカの銀行危機は日本に比較して短期に終わりました。
今回の日本の銀行が直面している危機に際して、日本の政府、銀行経営者が取っているやり方は、以前の護送船団方式の延長線上にあるとしか思えません。
しかしながら、この公的資金導入に対して、一体どれほどの真剣さで議会、報道機関、知識層、強いては国民が議論したのでしょうか。

自由に対する責任の意識がまだ日本には育まれていないのでしょうか。
独禁法の考えかたは、いろいろあるでしょうが、グローバルな経済体制の現況下自由競争市場がある業界のみが、国際的な競争政策を語る資格があるとの認識は強調しても強調しきれないほど重要なことだと考えます。
巨大銀行を生み出すことが、この競争の激しい世界で生き延びる方法ではなく、自由競争市場で独自の方法で生き延びることのできる企業しか生き延びるべきではない、との強い決意のもとに、日本の銀行業界、さらには金融業界の規制撤廃を進めるべきと思います。もちろん、今ビッグバンにより、日本も金融の自由化が動いていますが、その際政府がどのような後押しをしてしまうのか、充分に注視する必要があると思います。
国民の一人一人が自由と責任は、一枚岩である事を認識する上で、日本のテレビゲーム業界の現況を勉強することも一つの方法かと思います。
以上優れた情報の提供に深謝の意を込めて私見を述べさせていただきました。(水田さんにメールはymizuta@koyocorporation.com)