執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

日本で配当利回りが3-5%ある上場企業があるだろうか。預金金利の話ではない。アメリカの総合食品会社であるフィリップ・モリスのこの10年の株価に対する配当利回りである。
●配当+値上がりの年間利回りは23%

1998年の年次報告書の冒頭に載っているバイブル会長の報告もまた度肝を抜く。
「98年度は株価の上昇と配当とを合わせて23%の利回りを投資家にもたらした。これはダウジョーンズ30種平均の全体利回り18%を上回った」

「98年8月当社は配当を10%増配し、1.76ドルとした。11月には今後3年にわたり80億ドルを投じて自社株買い戻しプログラムを再開する。これによって当社はこの1年間、40億ドルを株主に配当をして支払い、一方で自社株を3億5000万ドル買い戻した」
1998年度の決算は売上高744億ドル、昨年の円ドルレートで換算するとほぼ9兆円。税引後の純利益は54億ドル(6500億円)である。アメリカを代表する優良企業であるが、ハイテク企業ではない。タバコのほかビール、乳製品、ハムソーセージといった日常の食品を扱っている会社である。
売上高は10年で1.7倍にしか増えていないが、利益は1.8倍。配当は89年に42セントだったものが、98年度には1ドル68セント。ちょうど4倍である。
アメリカの株式市場がバブル的だと報道されている。一面的には当たっているが、企業の業績が上がり、配当が上がっているという側面を見逃している。日本のバブル時との最大の相違は、アメリカ企業がちゃんと配当を増やして株主の期待に応えたのに対して、日本企業のほとんどは企業の業績が上がっても、株主への利益還元を怠っていたのである。

●配当を増やせば有利なファイナンスも可能

日本の上場企業はもっと配当すべきだというのが、萬晩報の一貫とした主張だ。トヨタ自動車については1998年03月02日付「株価押し上げにトヨタは大増配すべきだ」で書いた。100円もの一株利益を上げておきながら、23円の配当では株主は納得しない。
株式市場が「株屋」だけの時代はとうの昔に終わっているはずである。フィリップモリス会長のように「株価上昇と配当で投資家に○○%の利回りをもたらした」と胸を張れるようにならなければ、広範な市民が日本株を持つようにはならない。
赤字会社ならともかく、本田技研も松下電器グループも京セラも武田薬品もみんな配当を出し惜しみしている。よほどの理由がないかぎり、基本的に利益の半分は配当として株主に還元するのが筋である。増配すれば、株価が上がる。当然、格付け機関の格付けも上がり、資金調達で有利になる。
こんな単純で分かりやすい株の基本を企業もメディアもずっと忘れてきたようだ。