執筆者:中野 有【とっとり総研主任研究員】

朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、本当に人口の1割(220万人)の餓死者が発生するほど飢餓に直面しているのであろうか。

軍事的鎖国国家である北朝鮮の情報はベールに包まれており、現実の姿が伝わってこない。それゆえ各国の思惑が交錯しており、またマスコミによる情報にも偏りがあり、食糧援助一つをとってみても焦点が定まらない。

そこで、技術協力の基本に戻り、単なる食糧援助ではなく、食糧増産の技術協力、言い換えれば魚を与えるのではなく、魚の釣り方を指導することが肝要であるのではないか。

一方、北朝鮮は国際社会からの食糧援助に頼りながら軍事に重点を置くのではなく、農業の自給自足率を高める努力が不可欠である。これにより、国際社会は北朝鮮への技術指導を通じて北朝鮮の現実を把握することが可能となると同時に、北朝鮮の持続可能な発展に貢献できると考えられる。

80年代後半に国連機関の技術援助の仕事を通じ、西アフリカのリベリア奥地の電気や水道が整備されていない土地で2年間生活した。幸い、リベリアは緑豊かな土地で農作物の問題はなかった。しかし、当時の東アフリカのエチオピアなどは、雨が降らず本当に飢餓のどん底であった。

飢餓は雨が降らないから起こるのである。水、土地、太陽、労働力のあるところは耕作が可能であり、北朝鮮は少なくともそれを備えていると思われる。

北朝鮮の場合、5年前の大洪水以来、深刻な食糧難に直面しているとの報道があるが、アフリカの1部の地域に比べ最悪の事態とは考えられない。3年前と半年前の2回、北朝鮮の北東部を訪問したのであるが、飢餓の状況は多くのマスコミ報道ほど深刻とは感ぜられなかった。

最近、北朝鮮を訪問した国連開発計画の専門家によると、1995年以来、餓死者が3百万人発生したという報道は誇張されており、食糧事情は悪化しているが飢餓は回避されていると伝えている。加えて、食糧援助は解決策でなく、国際社会の農業技術指導を通じ、北朝鮮の食糧自給を高めることがカギになる、と述べている。

北朝鮮を国際社会に融合させる方法として、中曽根元首相は、金正日総書記に世界漫遊を通じ、国連などの会議に招待するのがいいとマスコミのインタビューに答えている。北朝鮮はトップの意向ですべてが動く社会であるから、これは的を射た考えだと思う。

同時に、「鎖国から開国」に向かうプロセスにおいて、その激流によるショックを緩和するためにも、北朝鮮の庶民と国際社会との接点を築くことが重要であると考えられる。

例えば、北朝鮮が望む食糧援助に、農業の技術指導を含めることで国際社会と庶民の交流が成り立つのではないか。

北朝鮮政策に対する国際社会の大局的な流れとして、包括政策に代表される韓国の太陽政策や、米国のペリー元国防長官の予防防衛を通じての朝鮮半島の信頼醸成の構築がある。

また、米国のシンクタンクは、既存の朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)に匹敵する、北朝鮮の農業技術協力を主眼とした朝鮮半島農業開発機構(KADO)の設立の重要性を提唱している。

そこで、北朝鮮に対する日本の役割だが、日本海側諸県の農業技術は豊富であることを念頭に入れ、国際社会と歩調を合わせた農業の技術協力を推進できないだろうか。北朝鮮情勢が進展するに伴い、農業の技術協力を含む環日本海交流が推進されるであろう。

北東アジアにおけるユーゴスラビアのような危機を回避するためにも、北朝鮮を国際社会に融合させる努力がさらに必要となる。それは、人と人との交流を伴う農業技

術支援がきっかけになるのではないだろうか。

中野さんにメールはnakanot@tottori-torc.or.jp