執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

きょうは三重県でのやるせないニュースを伝えたい。イスラム教で豚肉を食べられないバングラデシュ人の子どものために特別なメニューを出していた津市の白塚小学校(桜井真至校長)に対して津市教育委員会が4月「個別の調理をすれば衛生基準を満たすのが難しくなる」として辞めさせていたということだ。

この小学校には3人のバングラデシュ人の子どもが通学していて、3年前から給食に豚肉が含まれるときに鶏肉などを使った別メニューを出していた。教育的観点からすれば、まさに「異なるものへの配慮」として誉められこそすれ、怒られるはずのものではない。このまま続いていれば、ほかの多くの学校にこの話が伝わって全国的拡がりを見せたかもしれない。

4月以降は、豚肉が献立に入っている日は親が弁当を持たせているが、なんでも杓子定規に考える子役人らしい発想だ。国際化を目指す県庁所在地の「国際感覚」はこの程度だったのである。ため息が出そうだ。

●「除去食」はいいが「特別食」はだめという言い分

伊勢新聞にバングラデシュ人のファイズン・ナハルさん(36)の言い分が出ていた。

「100人の子どもの分は調理できて、3人の子どもの分ができないというのはどうして。忙しくて弁当を作るのは大変。早く元に戻してほしい」

話の顛末はこうだ。

白塚小学校には現在、三重大留学生の3家族から3年生1人と2年生2人のバングラデシュ人の子どもが通っている。この小学校では給食を自前で調理していたため、1997に転校してきたバングラデシュ人の子どもたち向けに別素材によるメニューを提供した。前の校長の時代である。翌年、赴任した桜井校長は「市教委の了解済み」との解釈でそのまま特別食を続けていたという。

それがことし4月の突然の「指導」である。

8月19日、津市の教育委員会が白塚小学校の保護者らとに対して説明したのはこうだ。今年4月に白塚小学校が「特別食」を提供していることが分かり「文部省の基準をもとにした市の衛生管理基準に反している」ことから打ち切りを指導した。

津市の基準では、アレルギーや宗教上の理由で食べ物に制限がある場合、牛乳や卵など特定の品を除く「除去食」は認めているが、代替品を使って別に調理する「特別食」は、O157発生の恐れなど衛生的問題や設備的問題があるとして認めていないらしい。

伊勢新聞によると、津市教委と保護者との話し合いは非公開で開かれ、終了後に会見した森尾英一学校教育課長は「特別食を作らない市の方針を説明させていただき、保護者の皆さんから要望をお聞きした。教育長とも話し合い、対応していく」と述べ、外国人差別ではないことを強調したという。

●宗教の違いを教える格好のチャンスを逃した津市

衛生問題を理由に別メニューを辞めさせるところは合点がいかないが、日本の行政らしさである。O157騒動の時には給食そのものを辞めた学校が多かった。すべて「臭いものにはふた」式である。問題はこれが教育現場で行われたことであろう。

本来の教育であれば、イスラム教との子どもを迎えることは歓迎すべきことである。世界に多くの宗教があって、生活習慣も違うことを学ばなければならない。世界にはばたく将来の子どもたちにとって「均一的な日本社会が特殊である」ことを教える格好のチャンスを津市教育委員会は逃した。

しかも2つのメニューといったところでたった3食だ。家庭の料理程度のことである。ふだん使わない食材を使用するならともかく、いつも食べている豚肉が鶏肉に代わるだけである。こんな程度では津市のいう「特別食」にも当たらない。しかも2年間もの長い間、給食の現場は何も問題を起こさなかった。津市教育員会は不遜であり、給食をつくっている人々に「失礼」に当たる。

津市の対応も問題だが、上部機関の理不尽な「指導」を唯々諾々と受け入れる学校も学校だ。

今回の措置に関して文部省学校健康教育課すら「これまで聞いたことがない」と当惑している。アレルギーなどの理由である食品が食べられない児童らに代替食を提供するなどの対応を認めた手引きを出しており、津市のいう「特別食」はダメだなどと決めつけてはいない。逆に「宗教的理由でも弾力的な配慮があってもいい」としているのだ。