執筆者:五賀 祐子【萬晩報通信員】

1998年4月3日付萬晩報「サインで銀行口座をつくってみよう」を覚えていらっしゃいますか。なぜ日本ではこれほどハンコが幅をきかせているのか、翻ってなぜ、日本ではサインが本来の署名として認められていないか、というところに鋭く切り込んでいて、私には記憶に残る一編だった。まだ読んでいない方は是非バックナンバーをご覧下さい。
それ以来、シャチハタ印を捺すたびに、その朱の色とともに「自書すること能わざる場合には、記名捺印」という法令の一節を思ったりしていたので、政府の事務次官等会議申し合わせ「押印見直しガイドライン」を目にしたときは「ついに日本の政府もハンコ社会の改革に乗り出したか」と感慨深いものがあった。
このガイドラインによれば、今後各省庁で以下のような場合は見直しを行うという。

記名(署名が要求されないもの 印刷、ゴム印などの記名でも許される)

ア 本人確認の必要がない、あるいは、確認には別の手段がつかわれるものなど、捺印の根拠がないものは廃止。

イ ア以外でもできるだけ記名押印か、署名かの選択ができるようにする
本人の署名を要求しているもの

原則押印廃止とする

「やったー。やはりお役所もやるときはやるのかも」と思ってその発行年月日を確認すると「平成9年(1997年)7月3日付」ではないか。「あれ、萬晩報の日付より9カ月も前。どうなっとるんや」。そこで、こういうお役所文書につきものの「スケジュール」部分を見た。

見直しは1997年8月末までに行う(つまり2カ月でするんだ、けっこう速いね)
見直し後、1年以内に具体的措置を取る(押印を廃止すると、様式を変更したりする必要が生じるから。といっても、これは長すぎる~)

で、遅くとも1998年8月末には、具体的措置が取られるはずであった。しかし実際には…
この申し合わせに従い、厚生省では「薬剤師免許の書き換え交付申請等の押印を見直し、薬事法施行規則の一部を改正し、1999年1月11日付医薬安全局長通知「医薬発第18号」をもってこのことを周知した」こととなった。即日実施である。
というわけで、ちょっと遅くなったけれども見直しは行われ、法律改正などの具体的措置も取られたようです。ただし、申請書などにある「印」マークは「当分の間、これを取り繕って使用することができる」とのこと、すぐに消えてゆくわけではなさそうです。
このことが、お役所だけでなく、わけもないのにハンコを要求されたり、やたらに必要ない個人情報を書かせたりする社会を変えていくきっかけになればと願ってやみません。
最後に、上記の事務次官会議申し合わせの前文によれば、この「押印見直し」の動きは地方公共団体からはじまり、その支援のために国としても見直すことにしたらしい。
念のため、行政機関のホームページを調べて見ると、熊本県の行政改革の取組例の欄に「押印見直しに併せて県立施設利用申請書の簡素化(平成11年4月を目標とし可能なものは10月から実施)」とある。詳細は分からないながら、やはり何事も地方から、個人からっていうことだなあと納得したような次第です。
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