執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

見たくない構図が見えてきた。萬晩報はこれまで国債の大量発行は必ず金利上昇を招くということを指摘してきたが、金利が上がらないのは金融機関が大蔵省の言うがままに国債の入札に応じてきたからだと思っていたが、事態はもっと深刻である。いつのまにか国が買っていたのである。

「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない」

財政法の第五条である。

●「引き受け」は禁止でも「保有」はOK!

11月27日発表された日本銀行の1998年度上半期の決算によると、日銀の総資産は78兆円。1年で41%も増えたそうだ。問題は日銀の国債保有残高である。引き受けてはならない国債を48兆円も保有しているのである。信じられないことに48兆円は発行残高の約2割にあたる。年間の新規発行額の2-4倍でもある。しかも1年間に8兆円増えたもようだ。これは禁じ手である。

引き受けてはならない国債を日銀が保有していることに疑問を感じ、問い合わせると、日銀の情報サービス局広報課から「財政法で国債の引き受けは禁じられており、日本銀行が保有している国債は市中から買い入れたものであることをお知り置きください」との返答が返ってきた。萬晩報読者の丹野さんがメールで質問した。

日銀のクイックレスポンスには驚いたが、この回答はほとんど修辞学の世界だ。以前、日銀幹部から聞いた説明は「日々のお金の出し入れの際、金融機関から企業の社債や国債を担保に預かる場合がある。あくまで短期資金だから保有といっても短期的でしかない」というものであったが、48兆円も保有していることになると話は違う。

国民からすれば「引き受け」と「保有」の違いなど分からない。財政法の精神からすれば国が発行する国債を同じ国の機関である日銀が引き受けると言うことは「タコが足を食う」ようなもので絶対にあってはならないことであろう。

その同じ精神からすれば「保有」だっていけないはずだ。日銀が総資産の6割を国債で持っている姿は尋常でない。東大法学部を出た頭脳明せきな人々がやっているのは、国家による粉飾である。粉飾というのはこそこそやり、やがて経営が行き詰まってばれるが、堂々と粉飾を公表しているから日銀は大したものだ。

だが、大手マスコミはどこも日銀の粉飾を指摘しない。11月28日の各紙の見出しを列挙する「日銀資産、劣化の恐れ(毎日新聞)「日銀剰余金が半減」(読売新聞)「日銀総資産4割の増える」(朝日新聞)「剰余金7.4%減8447億円」(サンケイ新聞)。どこもピントが外れている。知的怠慢でもある。

●81兆円もの国債を保有する資金運用部

日銀の国債保有が1年で8兆円増加していることはさきに述べた。だが資金運用部に比べれば増加の規模はまだかわいい。資金運用部は郵便貯金や厚生保険などを運用している政府の部門である。日本道路公団とか日本開発銀行といった政府系機関に貸し出している。1998年3月末の長期国債保有は81兆円。1年間に17兆円も増えている。ちなみに昨年度は運用利ざやはたったの0.14%。

1998年3月末の国債発行残高は257兆円。このうち日銀が48兆円、資金運用部が81兆円だから計129兆円を政府が保有していることになる。日本の国債の半分は「タコ足」状態という戦慄すべき状況がここにある。

しかも日銀の増加分8兆円に資金運用部の17兆円を加えた25兆円は、昨年度の新規国債発行額13兆円を大きく上回る。なんのことはない、新規国債のすべてを実質的に政府が引き受けて、さらに過去の国債も買い増しているに等しい。

今年度は、税収不足に加え、一次、二次の超大型景気対策のため40兆円もの国債を発行することになるが、これも最終的には日銀と資金運用部が引き受けることになるのだろう。

第二次補正予算を発表した宮沢喜一蔵相が「大量の国債発行でも市中消化に問題はない」と胸を張った背景にはこんなからくりがある。いったん銀行などで構成するシンジケート団が引き受けた国債は政府が再び買い戻す。そんなところに市場原理など求める方が無理だ。かくして金利上昇の不安がなくなるのである。