執筆者:八木 博【シリコンバレー在住】

●米国はインターンシップで単位

米国での、学校教育の中でビジネスを単位に加算するシステムがあります。インターンシップと呼ばれるものですが、なかなか合理的で、しかもビジネススピリットを学にはとても良い機会だと思いました。そして、自分でベンチャービジネスを起こした英国人からは、英国にはもっと違うシステムがあるよとも教えられました。話を聞いてみて思ったのですが、日本の現在の経済的な閉塞状態を打ち破るためには、日本の教育の中にも取り入れられる要素も多々あるのではないかと考えました。

米国の大学では、インターンシップという制度があります。これは学生が、実際のビジネスで実習をすると、それが学校の単位になるというシステムです。通常ですと3ヶ月から半年程度、会社に勤めて実習しつつ、ビジネスを学びます。会社は、あまり高くないですが、賃金をその学生に支払います。学生の立場からは、お金をもらってビジネスが学べるという形になるわけです。これは、学生が自分のしたいビジネスを選べば、その後のビジネスをはじめるに当たって、人のネットワークが作れたり、しくみを自分で変えたりして、とても良い機会になるのは、間違いありません。

これは、英国でベンチャービジネスを起こした人と話していて聞いた話です。英国では、大学の4年間のうち1年間は、ビジネスに従事して、そして大学の単位がもらえるという制度が、だんだん広まってきているそうです。このシステムでは、学生の希望に応じて、会社を変えながら過ごすことも、一つのところにとどまっていることも可能だそうです。ですから、製造メーカーで実習した後に、販売メーカーに行って、作ることと売ることを学んだり、あるいは、一つの会社内の各部署を見るということも可能になるそうです。英国では、このシステムが大学の間に広がっているそうです。そして、彼が言うには、ヨーロッパでは国によって、遣り方が違うというのです。

●日本でのシステムはドイツ系か?

ヨーロッパでは、ドイツが比較的アカデミズムという意識が強く、これらの制度は進んでいないと、英国人は言っていました。日本は、このような明確なビジネス教育をしないというのは、明治時代に入ってきたドイツ式の大学制度が一つの理由かも知れません。英国人の起業家は言いました。英国の教育システムは、「自発的学習」に時間を取ることを要求する。授業時間は多くはないけれど、自分でやるべき事が多い。それに比べると、ドイツの教育は「時間拘束が多い」と言っていました。正確な数字が確認できていないので、何とも言えませんが、自分で何かをすると言うことでは、英国もシリコンバレーも発想は同じだと考えられます。

一時、日本の大学では、産学協同と言う言葉が、マイナスの評価を受けた時期がありました。そして、その時に行われていたのは、企業からの委託研究という形が多かったと思います。しかし、研究形態と、目的とスピードからすると、大学の研究はジェネラル(幅広い)方が良いでしょうし、企業の研究は具体的で、スピードが速いものが良いのだと思います。そして、その二つの違いの中で、学生が両者を学べるとすると、広い視野から、ビジネスを学ぶということが出来るのだと思います。

●不況時ほど大きい政府の役割

政府の役割というのは、国の経済が正常に機能しているときには、それほど重要ではないのですが、経済の停滞や、異常事態が発生したときにはとても重要になります。それは、国家や地方自治の予算を使いながら、技術レベルを向上させるたり、新規マーケットを開拓する推進役を担うことも多いからです。米国でもレーガン大統領のときに、経済停滞を打破するために、中小企業に対して、連邦政府が研究を委託するシステムを採用しました。研究テーマについては、政府機関から提示して、それに対して中小企業が応募し、連邦政府は明確な選定基準で、採否を決めるというものです。これにより、連邦政府機関ごとのテーマが、低コストで開発されているという事例が出てきています。

現在の日本は、日本を訪れた外国人に言わせると、どこが不況なのという様子をしています。これは、日本の経済のもつ奥深さの結果といえると思います。それでも、現状の政府の見解でも経済は、非常に厳しい状況といわれるようになりました。その認識があれば、次の手は考えることが可能になります。新しいビジネスを起こしやすくする制度と、政府主導の産業活性化がどうしても必要なのです。経済の仕組みが、今までと違う分野への発展となっている現在、既存のしくみや、制度の維持に視野を向けさせるのでなく、どうしたら新しいものが育つ仕組みになるのか、産、官、学、そして個人が考え、行動するときになっていると思います。