昨夜の10兆円が朝方12兆円、夕方に16兆円となった
執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】
景気対策は政府の仕事なのに、自民党がいま景気対策を練っている。分かりにくさを解説したい。きょう、自民党が16兆円を超える総合景気対策を決めた。きのう10兆円だったものが夜が明けると12兆円となり、夕には16兆円となった
1998年度予算が国会で成立すると、政府はただちに景気対策のための補正予算編成に入ることになる。いま自民党の対策しか出てこないのは、予算成立以前に補正予算を考えれば「補正しなければいけないことが分かっているのになぜ本予算を修正しないのか」という”正論”に対抗しきれないからだ。ただそれだけのことである。
●建設公債は後々の資産になるのウソ
問題は中味である。03月12日付萬晩報「ビッグバンで必ず金利が上がる」で日本は、92年から95年まで66兆5700億円の景気対策を実施したことを報告した。日本の景気対策はいつだって公共事業が柱だった。減税だと赤字国債を発行しなければならない。だから政府は「減税は単なる借金」とし、公共事業なら同じ借金でも「ダムや道路など後々に国民の財産として残る」から公共事業の方がいいという理屈だった。
だが必要もないダムは環境を破壊するばかりで財産とはいえないし、年に何回も道路をはがして埋めるような工事も財産にはならない。かえって交通渋滞を招くだけである。港湾設備など維持費がかかって将来に渡って地方財政の負担だけになる施設も少なくない。
大蔵省の役人の頭のなかでは建設国債と赤字国債とは異次元のものかもしれないが、国民からみればどちらであっても返済しなければならない借金でしかない。それが常識感覚である。マスコミも小利口に建設国債と赤字国債の違いを論じるのを辞める時期にきているといえよう。
●公債発行増が円安を招き金利が上がる
昨年来のアジアの通貨危機に対してIMFやアメリカは、各国に緊縮財政を求めた。簡単に言うと「近代化を急ぎすぎて借金をしすぎだ」というのが先進国側のアジアに対する姿勢だ。国の経済力以上の借金をしたから通貨価値が下落し、為替を維持するために金利を上げざるをえなかったとも批判した。借金ー通貨下落ー金利高ー景気悪化ーという悪循環に陥った。そこにさらに緊縮財政を求められているのだから、アジア諸国は立つ瀬がない。
日本の場合も「景気悪化ー借金増」だけで終わるのか心配である。国の力以上に借金すると通貨価値が下がることは昨年来、アジアで目の当たりにした。政府は4月の外為法の規制緩和でも国民のお金が国内から逃げ出さないということを前提にまた大きな借金をしようとしている。ここが怖い。国民のお金がどんどんドル預金に置き換わった場合、金利が安い円資金はなくなる。国民の金融資産が1200兆円あったとしてもそのうちドル建て国債を発行するか、金利を上げて外国に逃避した資産を呼び戻さざるをえなくなるだろう。
やっぱり、金利は上がらざるを得ない。国債増発が金利上昇を招くと考える方が常識に合っている。
●参院選しか視野にない自民党
そもそも、まじめな多くのサラリーマンは景気対策など求めていない。仮にやるなら無駄な公共事業よりも減税の方が効果があると思っている。税金を支払っていない人はともかく、減税の方が国民に平等に効果が行き渡るというものだ。自民党が16兆円を持ち出したのは7月の参院選を意識したものでしかない。そして公共事業を柱にしたのは農村票を期待しているからだ。
わが郷里の高知県では23日に県会議員補選があり、共産党と無所属の候補が二つの議席を確保した。自民党は全滅した。高知県は典型的な地方型選挙が展開されるところである。投票率が29%と低かったことも影響したが、その高知県で自民党が一つも議席を取れなかったことは、何を意味するのだろうか。